今日の日曜日は西荻窪のウェンズスタジオで、
「赤と黒」という舞台を観劇。
リンクプロジェクトというグループの公演であった。
水上勉の小説「五番町夕霧楼」を舞台化したものであったが、
脚本も演出もややザツな創りであまり感心できんかった。
若い役者さんたちは、それなり頑張って汗をかいとったが、
結局熱演だけで終わってしまったような気がする。
オノレが「五番町夕霧楼」を映画で観たのは、
昭和38年の東映作品で、監督・脚本:田坂具隆、
佐久間良子と河原崎長一郎が主演であった。
映画全体を鮮明に憶えてはおらんが、
若いオノレの涙腺がしまりなく緩んでドット泣けタッケ。
あれは佐久間良子のデビュー作品であったような気がするナ。
彼女はまことに初々しく艶っぽく、
しかも芯の強い薄幸な女郎という雰囲気が
そこはかとなく滲み出て、
若いオノレにはナカナカ魅力的であった。
が、何より河原崎長一郎の修行僧・正順が好かった。
生まれながらにドモリの陰気な若い坊主は、
社会の理不尽に屈折した怒りを感じつつ、
孤独の中でその怒りを内向きに溜めこみ、
ついに寺の放火という行為で怒りを爆発させてしまう。
その苦悩する哀れな青年を河原崎は見事に演じとった。
水上勉は昭和25年に起きた金閣寺の放火事件を題材に、
(金閣寺は寺の若い徒弟、林義賢の放火によって焼失した)
幼馴馴染みの薄幸な男女が遊女と坊主になって再会し、
やがて救いのない結末になる悲劇を、
彼独得の情緒をこめて淡々と描いておる。
そう、オノレにはヨカッタあの昔の映画と、
今の若い方が創る舞台を比較し感想を述べるのは、
チト気の毒な感もある。
しかし憶えの決してよくないオノレの頭に、
未だに残っている映画と小説である。
どうしても舞台を観ながら無意識に比較し考えてしまう。
で、ついキツメの感想になるのやも知れん…。オユルシアレ。
いずれにせよ半世紀以上前のお話を舞台にする場合、
これはもう「時代劇」なんだナ…とつくづく思う。
現代の若い女優さんが昔の女郎を必死に演じても、
なかなかその頃の匂いと時代の悲劇を語る女郎に化けん。
女郎遊びに明け暮れる大店の旦那や、
権謀術数に長けた住職や生臭坊主にならん。
(これはそれなりベテランの役者さんがしとったんだが)
身のこなし、帯の締め方一つで嘘になってしまう。
さよう。西陣の大旦那があんな生地の着物は身につけんし、
着こなしもマズいたしません。
かような演目をアングラでなくキチンと舞台化するには、
役者の演技はもちろん、装置、小道具、衣装、
諸々にいたるまで、時代考証を丁寧にして、
念には念を入れて創らねば、
いろいろウルサイお客を黙らせることはできんのだ。
アタリマエだが、とても歌舞伎や新派の役者にカナワン。
若い世代が日々遠くなる時代の世界に挑戦する心は、
尊いし大切なことだ。その意気やヨシ、歴史は受け継がれる。
だからこそ、それなりの予算をかけて創るなら、
安くないチケットでお客に観せるなら、
やれるべきことは最低やりつくす努力をしてほしい。
「五番町夕霧楼」だけでなく、
あの時代を撮った遊郭の映画はたくさんあるし、
記録映画もそれなりある。
市川雷蔵主演の「金閣寺炎上」なんてえ名作もあったぞ。
こういうものをレンタルで借りて観れば、
少なくとも衣装や着こなしなんぞ大いに参考になるはずだ。
またそういうことを身に付けている人、よく心得ている人から、
頭を下げて教えを乞うなり学ぶべきである。
ひょっとして学んでいたのだとすればゴメンナサイ。
が、少なくともオノレの目には、
舞台成果としてそうは見えんかった。
今回の役者やスタッフが、それなり一生懸命、
真摯に舞台と格闘していただけに、
オノレにとって少し消化不良でモッタイナク、
残念な公演であった。
昼間の芝居を役者仲間の友人と観に行ったら、
広島からわざわざ観に来ていた彼の友人を紹介された。
その彼曰く、夜は後楽園ドームでアメリカのロック・バンド、
「イーグルス」のライブに行くのだという。
どうも遠く広島から出てきた目的はコチラが本命らしい。
半端ではない音楽通で、ロックファンのようにお見受けした。
で、オノレの友人も一緒に行くはずなのであったが、
大事な芝居の稽古でダメになり、
変わりにオノレが行かせてもらうことになった。
しかもチケット代は入らんという。
こういうオイシイお誘いには、
すぐのせて頂く品のないオノレである。
二つ返事でのせてもらい、甘えて行くことにした。
そしてまた一つ、貴重な体験をさせてもらった。
オノレを誘ってくれた広島の彼は、
大学応援団をしとった実に飾り気のない、率直そのものの御仁。
またこの人と会うため広島へ行きたくなるような人柄。
アノネ、チケットをタダでくれたからゴマスッテルのではナイヨ。
オノレより十も若いが、オノレより落着いてユトリがあり、
付き合ってタメになる、面白そうな人物であった。
さて後楽園ドームはもう凄い人、人、人…。
いったい何万人来たのであろうか?
「大地震でもきたらどないしょ」とそれなり心配もして、
イロイロ、ホトホト疲れたが、やはり来てヨカッタワイ。
長いこの人生でロックちゅうのにおよそ興味のなかったオノレである。
もちろん「イーグルス」なんてえロック・バンドは知らんかった。
しかしあのでっけえドームで、けっこう年をくってる彼らの、
三時間も歌って演奏するエネルギーにもう唖然。
陶酔したように立って手を振るファンの姿にまた唖然。
ホンマ、彼らの声帯の化物的強さにビックリこいた。
オノレなら一曲歌わんうちにノドがツブレル。
いったいどないモノを食えば、オノレの鼓膜を破壊しそうな、
ああいうキケンな声帯になるんじゃろ?
キケンといえば、ベースなのかドラムなのか、
重低音で響く楽器の音がこの内臓を激しく揺さぶり、
心停止になるのではと、思わず胸を押さえたオノレであった。
まあ、今後老いてなお積極的にロックのライブに行こうとは思わんが、
なかなか刺激的でキケンな初体験でありましたです…、ハイ。
ライブ終了後、水道橋の飲み屋で宴席。
そこでも広島の御仁にオゴッテいただき、
すっかり甘えてしまって面目ないこと、ウレシイコト。
昔応援団の豪傑に感謝、感謝で、
気持ちよく酩酊し家路についた、今夜のオノレであった。