オノレ日記帳

2004年12月の記録



  危機一髪の大晦日
Date: 2004-12-31 (金)

 昨夜の忘年会で飲みすぎて、
すっかり二日酔いの大晦日になッちまった。
午前10時過ぎに起きて、すぐ頭痛薬を飲んで、
ようやく午後2時過ぎ、何とか痛みが弱くなった。
 体がシャンとして外を眺めればまた雪。
しかもかなり強い雪華。
ふと年明けからの食材がないのに気づき、
慌ててヤマノカミと車で買物に行く。
で、その買物帰り、
危なく人身事故を起こすところであった。
一方通行の細い道を走って、
それが行き止まるT路地を左折した瞬間、
右から直進してきた自転車の若い女性が、
オノレの車に突進、横転しちまったのである。
折りしも雪の降りがひどいときであったから、
オノレは慎重に運転はしとったのであるが、
より慎重にシッカリ周りを確認し、運転せなアカンかった。
ひどい雪の中、たぶん女性も家路を急いで、
しかも傘をさしつつ自転車をコイどったから、
左の道から車が出てくるとは思わなかったのかもしれん。
幸いにも、強い雪の中、狭い曲がり角で、
オノレは歩行より遅いくらいのノロノロ運転で、
左折のハンドルをゆっくり切った。
いや、それでオノレも女性もスクワレタたのかもしれん。
車に当たったのは自転車の先ッポだけということもあり、
横転したが、女性の体は無傷であった。
 当たった瞬間「ヤバイ」思い、車を降りて必死に謝り、
体の具合をたずねるオノレとヤマノカミに、彼女は、
「大丈夫です。自転車がぶつかっただけなので、
体は何ともありません」と答えてくれたが、顔は真っ青。
もちろんオノレとヤマノカミはもっと真ッ青。
もしわずかの怪我でも彼女に負わせとったら、
オマワリサンも来るハメになったであろうし、
ドエライ一年の締めくくりになっていたことであろう。
 今さらながら車はコワイ!!
元気に再び自転車にまたがり去って行く女性を見送りながら、
ホット胸をなでおろし、両手を合わせたオノレであった…。
 アラアラ、お嬢さん。この雪ん中、傘をかざし、
また片手運転で自転車コグナちゅうの!


  忘年会
Date: 2004-12-30 (木)

 今日の夕方からオノレの仕事関係・役者仲間と忘年会。
ゲストについこの前お世話になった広島の応援団氏も、
ワザワザ広島から上京して参加してくれる。
牡蠣のお土産付きですゼ!
全員で11人になるからアッというまになくなるワイ…。
 年が明けて一月中旬、会津若松の教会で「タイチャン」公演。
今日は目一杯ドンチャカやって、
正月早々、マジメにその稽古をするツモリ。
♪ ランラ〜ランのヘ〜ロヘロ…


  初雪に…
Date: 2004-12-29 (水)

 東京の初雪だな。
あんがい積もってさすがに冷える。

  妻の煮るものあふれたがるよ雪催  ( 吉田 明 )

 かような俳句を見つけたが、明日オノレの家で忘年会があり、
その下準備でヤマノカミは大童、
ガス台に鍋を二つのせてガンバットル。
オノレは大してすることもなくボケーッとしておる。
で、何となく昨日のスポーツ新聞に目をやっていたら、
今年亡くなった有名人の名前が月順に掲載されとって、
チトびっくらこいたナ。
 個人的お付き合いはないが、かつて仕事でご一緒したり、
間近に会って話したことのある方が10人もいたのである。
おおよそ70人位の人が選ばれて「おくやみ」されていたから、
なんとそのうちの14%ほどの人とオノレは出会って、
多少なりともご一緒したことがあるわけだ。
高木均・中谷一郎・三橋達也・下条正巳(敬称略)…等々、
やはり役者の方々ばかりなのであるが、
中には金田一春彦さんのような方もおった。
若い頃、「日本語」についての講義を半年間受けたのである。
しかしまあ、オノレのようなボンクラ役者でも、
こげに「有名」な方々とお仕事した過去があったんかい?
と、妙にナツカシイ、複雑な心境に暫しおそわれちまったナ。
いや、待て待て…。てえことは、
オノレの知らぬ間に今年亡くなった、
一般的には「有名」でない大勢の方々の中に、
オノレが過去一度でも会ったことのある人が、
けっこうタクサンいらっしゃるのではありませんかネ…。
 降りしきる初雪を見ながら、
諸行無常を冷え冷えと感じるオノレであった。

  初雪や何処の人を死にやらん  ( 麦  人 )


  スマトラ沖・大地震と大津波
Date: 2004-12-28 (火)

 被災地から遠く離れて、イマハ平穏無事な東京で、
茶の間でのんびりクツロギながら、
テレビの映像を見ているだけでは、
26日(日)に起きたスマトラ沖の大地震と大津波の、
余りに巨大で、被害国とその犠牲者が遭遇した惨い現実が、
まるで別世界の出来事を見ているかのごとく、
バーチャルなものに見えてしまう。
オノレのボケ脳みそには、
いま一つ恐ろしいリアリティをもって迫ってこないのだ。
 だが災害を被った国の痛手は深刻であろうし、
何万を超えそうな犠牲者の家族にとって、
これを「神のなせる業」とあきらめることは、
ナカナカ「至難の業」にちがいあるまい。
 さてこの東京を巨大地震が襲うのはいつのことやら…。
で、その日のことをシッカリ想像してみれば、
オノレのボケ脳みそにも今回のスマトラ沖の天災が、
にわかに自分と別世界ではない、
恐ろしいリアリティーをもって迫ってくる。


  大整理
Date: 2004-12-25 (土)

 あと一週間で年が明けるからというわけでもないが、
午前中から部屋の大整理にとっかかり、
それなり片付いて時計をみれば日変わりしとった。
もう腰はイタイし手はささくれるし足は棒になるし、
あまりワカクナイちゅうことは、ホンマ肉体にコタエルわい。
それでもこのパソコン周りがずいぶんスッキリして、
やはりそれなりの成果はアッタ。
 で、今この夜ふけに、
アチコチ痛むオノレの怠惰な筋肉をヤサシク摩りながら、
泡盛飲みつつ気持ち良く自己満足しているオノレである。
それもこれもヤマノカミに頭を下げて買ってイタダイタ、
パソコンのプリンタが届いたゆえの大整理。
実際、プリンタの大きさなんぞしれたもんなのだが、
いざパソコン周辺に置くとなると、これがナカナカ大変。
それなりの知恵と工夫がいるのでコマツタ。
 一つのモノを退かすと同時に、
退かしたモノの新たな置き場所を探し、
そのためまた別の場所にあるモノを退かし、
また退かしたモノの新たな置き場所を探す…。
玉突きしながら一つのモノを追い出しては、
入れたり出したり、また追い出したりの堂々巡り…、
オノレの知恵のなさにホトホトゲンナリ。
そう、ガキの頃からパズルに弱いオノレであった。
茶の間も書斎も稽古場も全て兼ねとる広くない居間を、
なるたけスッキリヒロビロと、合理的に、
何が何処にあるかサッと分かるようにするためには、
プリンタの置き場所一つでも往生コクワイ。
 狭い世間を、
いやいや、オノレの「イマ」をウラムしかござんせん。


  「子午線の祀り」
Date: 2004-12-24 (金)

 多分、今年最後になるであろう観劇。
三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで、
「子午線の祀り」(作・木下順二)。
 20分の休憩を挟んで4時間を超える大河ドラマだ。
源氏と平家の源平合戦。
壇ノ浦の決戦を山場に、
和平の道を探り苦悩する平知盛を核に、
敵の源義経もまた、
兄・頼朝の自分に対する不信に悩み、
その信頼を得んと壇ノ浦の戦いに賭ける。
義経の見事な戦略に破れ、遂に海の藻屑となる知盛。
天球上の大円、北と南を結ぶ子午線によって、
潮の満干が大きく変わり、
そのことによって戦いの様相が一変する壇ノ浦の源平合戦。
瀬戸の複雑な潮の流れを読んで、
自軍有利に如何に戦うか…。
敵と味方、味方の中の敵…、
イロイロ疑心暗鬼を孕んで展開してゆく人間模様。
これも実にオモロイのだが、
海の満干を舞台にして戦う両軍の、
知略・策略をめぐらす心理的葛藤が、
さらに遠い歴史のドキュメンタリー見ているごときで、
ハラハラ・ドキドキと面白い。
 オノレはこの舞台の初演を、
随分昔に国立劇場で観ている。
そのときは演出・宇野重吉、知盛・嵐圭史、
阿波民部・滝沢修、影身・山本安英、
というようなメインキャスト。
義経は誰がしたのか忘れちまった。
この4人のうち、嵐を除く3人は、
すでに子午線なんぞより遙かに遠い、
つかみどころのない世界へとオサラバしとる。
で、実はこの嵐圭史というのは、
恥ずかしながらオノレの実兄でありまして、
(恥ずかしいのはオノレのごとき弟のいる兄であったか!)
身贔屓は一切なく、初演の舞台で、
それは素晴らしい知盛を観せてくれたのであった。
 まあ、今となっては、
初演の舞台をシッカリ憶えてるわけではないのだが、
それでも今回の舞台より、
全体としては優れていたのではナカッタカ…と、
オノレは思う。
4時間を超えて、チットモ退屈しなかったし、
決してやさしくない話の展開が、
案外わかりやすく観る側に届いとったような気がする。
それに比べ、今日の舞台は長いナガ〜イ前半であった。
さすがのオノレも眠気をこらえるのに必死で、
こらえきれずオヤスミになっとる客の、
それはそれは、役者の声より響いとるかもしれん、
モノ凄いイビキを聞きつつ、
襲いかからんとする眠気をこらえた。
 かように眠くなる第一の要因は、
タブン、知盛役の野村萬斎サンのせいではあるまいか?
とにかく台詞のリズム、強弱がオソロシク・ワンパターン。
ただただそのパターンを繰り返し、
終始お喋りしてくれるから、
これはやはりツラかったですヨ。
発声も狂言で鍛えられた喉でヒッシになさるから、
必死に強調して早口だと、
何を言うとるのかサッパリわからん。
今年、ギリシャで公演した蜷川演出の舞台で、
彼が主演したのをテレビで観たが、
これも今回同様のエロキューションで演技しており、
ツラソウで、クルシそうで、やはり退屈シチマッタナ。
確かにノドの強さはタイシタモノなのであるが、
芝居は応援団でも、アジテーションでもない…と、
まだお若い萬斎さんを観て、オノレはチト危惧したナ。
 義経をやった嵐広也はナカナカよかった。
実はコイツも恥ずかしながら、
オノレの身内、甥ッ子なのであります。
(コイツもオノレのような叔父がいて、
タブン、恥ずかしがっとる)。
身内とはいえ、
日頃、およそ個人的付き合いもしとらんから、
これも全く身贔屓なしで評するのだが、
実にヨイ演技をオノレに観せてくれたワイ。
 甥は役の性根をシッカリつかんでおったし、
台詞のメリハリ、身のこなし、
叔父として正直ビックラコイタゾ。
「コイツ、いつのまに、
コゲなエエ役者になったんかいノ…」と、
未だエエ役者になれんオノレをスッカリ反省。
ホンマ、広也の義経が出てきてから、
舞台は俄然生き生きと展開しはじめ、
客の眠気も失せた…と、叔父のオノレは思ったナ。
 率直なところ初演に比べ不満はあったが、
何々、初演よりヨカッタところもあったゾ。
 この芝居では「群読」、
ギリシャ悲劇でいえば、コロスのような存在が、
重要な役割を果たしているのだが、
今回、その群読が初演に比べ実にヨカッタ!
群読以外、大して台詞のない人はもちろん、
メインの役者もすべて群読の一員となり、
アンサンブルよく、見事なイキで客を堪能させてくれた。
これは初演に優る成果だナ。
(ギリシャでやった蜷川さんのコロスより、
はるかにマサッテおったとオノレは感じた。)
 とにもかくにも、年の終わりに観ておいて、
ソンもトクもしなかった…、
そういう舞台であったとオノレは思う。
さよう、9,000円は確かに高いしツラかったが、
この規模で芝居をやるとなるとショウガアンメエ。
オノレのプロデュースする芝居と異なり、
役者に払うギャラ一つでも、
チト桁が違うんだろうしなぁ…。
が、皆の衆、芝居の質は、
オゼゼをかけているからといって、
見応えのある、良い公演になるとは限りませんのヨ。
オゼゼをオノレのごとく余りかけられんでも、
かけてる舞台に負けぬ、
質の良い、見応えのある舞台を創ることもデキル…、
カモシレナイ。
心あるお客は、そこのところをチャンと見てくれている…。
オノレはかように信じて芝居を創り、
役者として、オノレの可能な範囲で、
精一杯ガンバロー…と、
ナントナク思っているのでアリンス!
 それにしても木下順二てえのは、
やはり「スゲエ劇作家だ」と、改めて思うナ。
日本語の素晴らしさ、音として喋る台詞の美しさ、
「劇的なるモノ」の確かさ…。
いくつもの民話劇の名作はいうに及ばす、
現代劇・歴史劇を含めて、
まさに日本演劇史に残る巨人の一人ではアリマセンカ。


  来年から 《メディアフォース》
Date: 2004-12-23 (木)

 ここ2年ほど、オノレはオノレの個人事務所《独歩》で、
声優分野の仕事から舞台活動までの一切をしてきたが、
来年1月1日から、声優の仕事に関わるマネージメントを、
《メディアフォース》という、
今はまだ小所帯の、若々しいプロダクションにおまかせする。
この事務所の親会社は《ドリームフォース》という、
これもまだ小所帯の規模ながら、
アニメや外画、CDドラマなどの音声製作の分野で、
ナカナカ一生懸命頑張っとる若々しい会社である。
それにしてもオノレのごとき、
棺桶に片足突ッこんどるような、
タブン、業界の一部からは、
「アツカイニクイ」と言われているらしい輩が所属して、
(本人はチットモそう思っとらんのですヨ)
「本当にエエンカイナ」と、ずいぶん迷ったのではある。
にもかかわらず熱心なお誘いを受けて、
それが実にアリガタク、彼らの若い力の輝きというか、
エネルギーの欠片でも頂戴できればオノレもさらに若返り、
今後、より充実した声の仕事をできるのではないか…、
そう思った次第でアリマス。
 で、来年から《独歩》は消滅…。
いやいや、独歩はオノレの「独談」「独演」活動、
またプロデュースを含めた舞台活動の拠点として、
演劇界のホンノ片隅ながら、できれば年に一度くらい、
例え小さな声であっても、
世の中に何かを「アピール」すべく、
今後も継続してガンバリマスです!
 さて、声優の分野で、
オノレが《メディアフォース》さんに所属し、
一番ホッとしたというか、自由になったというか、
大いに悦んだのはヤマノカミなのである。
なにせこの2年、オノレの仕事全て、
電話番からスケジュール調整、ギャラ交渉から請求書まで、
一切を管理してきたのである。
来年からはその束縛から解放され、
個人としての自由な時間が大幅に増えるんダヨナ。
(でもねえ、正直いうと、
声優・麦人一人にカカッテくる仕事の電話なんざ、
一週間に数えるほどの回数でしかアリマセンノヨ)
それでなくともアレヤコレヤと、趣味の多いヤマノカミ…、
オノレは今からオソレルのである。
ヤマノカミが24時間、
自宅に板付きで独歩の仕事をしていた時より、
返ってオノレの面倒を、
ナイガシロにするのではあるまいか…、トネ。
そう危惧しつつ、チト悩んでおる。
 ま、来年からの新しい状況によって、
これまでよりヤマノカミがさらにニコニコしてくれるなら、
オノレとしては、もう何も言うことはないのでアリンス…。
 とにもかくにも来年以降、
ミナサマ、メディアフォースとオノレをよろしく!
もちろん《独歩》もネ。

     メディアフォース・HP
http://www.dream-force.tv/mediaforce/top.html


  NHK・BS2 「チェオクの剣」・放送未定
Date: 2004-12-21 (火)

 韓流ドラマ全盛の中、
オノレにもようやく韓国ドラマ吹替の仕事がきた。
「チェオクの剣」というアチラの歴史劇だ。
NHK・BS2で、いつから放送されるのかは未定のようだが、
13回のシリーズだという。
オノレはその第三話から登場するチェ・ダルピョンという、
一癖・二癖ありそうな謀反組織の幹部役。
話の内容は放送前なので控えるが、
主役のチェオクというヒロインは、
なかなかの美形でございますヨ。

 いよいよ後10日で年が変わるか…。
年内にやっておきたいこと、やらねばならなかったこと、
イロイロやり残して終わりそうだがシャアナイ!
せめて歳末くらいアクセク・ジタバタせんで、
ダラッーと、のんびり過ごしたいナ…、と思うオノレである。
「寝ぼけたこと言わないデ、
年の瀬だからやるべきことをやってチョウダイ。
どうせ年が明けたら明けたで、
『新年くらいはのんびり、ダラーッ』、
ということになるんだから!」
 ヤマノカミサマのオッシャルとうりかもしれませんです、…ハイ。


  鼠径ヘルニア
Date: 2004-12-20 (月)

 一ケ月ほど前から、オチンチンの少し上、
左脇腹下あたりに軽い鈍痛のようなものを感じて、
ヤマノカミに脅され、
オノレは致し方なく近所の内科病院へ行った。
「まさか大腸癌のごときものではあるまいナ…」と、
臆病なオノレも渋々重い腰を上げたのである。
 寝ているときや動かぬときは何ともないのであるが、
立ち上がろうとしたり、前屈みになったときにチトイタイ。
 さて、ご近所のなかなか丁寧な老医者サマは、
オノレのオソマツなオチンチン周辺を触診し、
曰く、「タブン鼠径(そけい)ヘルニア」であろう、
というお見立。ようするに脱腸(ダッチョ)。
その初期であろうと云うんだナ。
ヘルニアだとすれば外科であるから、
そういう病院へ行って診てもらえッてんで、
本日、イヤイヤ、
近所のデッカイ公立病院へ行きましたです…、ハイ。
 で、四十前後の、一見、信頼するにチト不安を感じる、
実に能弁でよくシャベル外科医は、老医者と同じく、
オノレのオソマツなオチンチン周辺を触診し、
「ムズカシイ、ムズカシイ…」とボヤキながら、
多分「鼠径ヘルニア」なのだが、
「ヘルニアがヘルニアの如く下腹部に突起してこないと、
鼠径ヘルニアとして病名を下すのは難しい」、
てえんだよな。ようするに、
「ヘルニアが瘤のように下腹部に突起したら、
その時点で手術をできるが、
突起もないのに手術はできんので、
それまで痛みを我慢して待つホカない」、てえんだヨ。
突起もないまま手術をしてしまうと、
イロイロ、かえって大変で、
医療事故にもつながりかねんという。で、
「ほんとうに鼠径ヘルニアなら、
痛みを感じて二、三ヶ月うちに、
必ず突起してくるはずだ…」、ちゅうのヨ。
「あの、例えば二、三ヶ月しても突起せんときは、
どないことになるのでアリンス?」と、
ひどく不安になってオノレはオタズネした。すると、
「そのときは鼠径ヘルニアではない可能性もあるから、
超音波やMRIなどの検査をして、
痛みの原因を突き止めることになるでしょうネ」、だと!
 ッたく、いくら患者数が多くて、
忙しくコンベアベルトで診察するにせよ、
みっともないチンチンさらして、
オソルオソル立ってる男の気持ちてえものを、
もう少し察して、チャント診て説明しておくれヨ。
軽いとはいえ、この痛みを後数ヶ月我慢しながら、
ヘルニアさんの肥大するのを、
ただ、ボケーッと待ってろちゅうんかい!
 オノレは年明けにでも、チャンとしたお医者様を探して、
もう一度キチンと診てもらわにゃならん。
そしていずれにせよ、、コブの出現を待っとれんから、
早急にMRIの検査だけでもすることにキメタ。
 ま、某公立大病院のセンセイを、ツイ責めてしまったが、
「寝ているときや動かんときに痛みがないなら、
癌のような悪性腫瘍ということは、タブンアリエナイ」、
とおっしゃる。それがホントウなら、
それが分かっただけでもヨカツタ。
それだけでもチト安心し、、
結局、一週間分の鎮痛剤だけをもらって、
三時間半もいた公立病院からオサラバしたオノレである。
で、先生との別れの会話。

オノレ 「鎮痛剤を飲まなくなると、
    また痛みが出るんでしょうネ?」
先生 「モチロン、デマス」

 カッテニサラセッ!


  米映画 「砂と霧の家」
Date: 2004-12-19 (日)

 今日は久し振りに長い洋画の吹替で終日スタジオの中。
アメリカ映画「砂と霧の家」という、
2003年製作の作品だ。
たぶん、近々DVDで発売されることになると思うが、
オノレにとってはナカナカ見応えのある、
そして吹替甲斐のある映画であった。
監督・脚本はヴァディム・パールマンという人。
 イラン革命で祖国を追われ、
米国籍を取得した元軍人家族と、
収入もなく、税金未納で家を差し押さえられた若い女との、
結末にあまり救いのないオハナシ。
救いはないが、人にとってほんとうに大切なもの、
幸せにたいする価値について、
人の意思疎通の難しさを感じつつ、
アレコレ考えさせられたナ。
後半の展開は、悲痛が胸に迫って目頭がチト濡れた。
 オノレが吹替えたのは、
そのイランを追われたベラーニ大佐。
かつてイランで裕福に暮らしたこの大佐も、
米国では建設現場で働く作業員のような仕事しかできない。
貯えた金も底をつき始めているのだが、
プライドの高い大佐は、その実情を世間に隠し、
また愛する子供たちの幸せのため、ムリにムリを重ねる…。
 そのベラーニ大佐を演じているのはベン・キングスレー。
昔、ガンジーをやった役者であるが、
オノレは「サンダーバード」という映画で、
この役者の声を吹替させてもらった。
他にも一、二度当てたような記憶がある。
実に風格も味もある、なかなかの役者だ。
さよう、スタートレックのピカード艦長、
パトリック・スチュアートさんをゴッツクしたような感じ。
おそらくオノレがこの吹替をすることになったのも、
吹替制作サイドでピカードとベラーニとのイメージが、
重なる部分があったからではなかろうか…、
何となくそんな気がしたナ。
(あるいは「サンダーバード」で当てたからかな?)
 とにかく、まことにヤリガイのある、
吹替冥利につきる仕事をさせて頂き、
終了後、チト咽喉が痛くなった今日のオノレであった。


  ほぼ決定した「象」のキャスト&スタッフ
Date: 2004-12-18 (土)

 来年八月、下北沢OFF・OFFシアターで上演する、
独歩プロデュース公演「象」(作・別役実)の、
キャスティング&スタッフがほぼ固まった。
台詞がほとんどない役、出場の少ない役と、
舞台経験を積んだ役者さんには、
チト役不足と思われる役もあったりで、
最終的に決定するまで紆余曲折、
イロイロあって苦労したナ。
しかし、当たりまえのことではあるが、
役に出場の多い少ないはあっても、
台詞がなかったり、一言だけの役であっても、
すべての役が芝居の重要な登場人物なのである。
そこをよく理解してお引き受け頂いた出演者全員に、
プロデュースする者として、オノレは深く感謝する。
「必ずや見応えのある、質の高い舞台にするぞ」、
という自信と覚悟をもって、
来年、あらためてフンドシを締め直し、
この巨大な「象」に立ち向かおう。
 どうか皆さん、舞台への情熱にあふれた、
熱いキャストとスタッフが集まりましたので、
大いに期待し、暖かく応援してやってくれんさい!


  「ザ・クライシス」&「れもん」
Date: 2004-12-17 (金)

 昨日は昼・夜、二本立ての芝居観劇。
マチネーは信濃町で文学座アトリエ公演、
「ザ・クライシス」(原作・ジョン・サマヴィル)。
 1962年のキューバ危機を扱った、
セミドキュメンタリー・タッチの芝居。
事実の取材にもとづいて書かれた原作らしく、
なかなかリアリティーも緊迫感もある、
意欲あふれたディスカッション劇であった。
 ソ連がキューバに核ミサイルを持ち込んだ事態に、
アメリカ・ホワイトハウスでは、
軍やCIAトップ強硬派と、
国連大使、司法長官など穏健派との、
激しい論議と対立が起こる。
タイムリミットは刻々と迫り…というような展開。
そのホワイトハウス内の緊急会議と併行して、
ハーバード大学の実習生と、
大統領秘書の女との懇(ネンゴロ)ろな関係が、
危機の深まりと同時進行で描かれる。
 オノレの半呆け脳みそにも、
キューバ危機当時、世界中が緊迫した記憶がシッカリある。
それだけに冒頭から劇中に入りこめたし、
思えばゾッとする、
とてもタノシメナイような過去の歴史的事実の舞台を、
興味津々、大いに楽しんで観ちまった。
しかし、激しい議論と併行して、
随所に出てくる実習生と秘書の場面は、
ホワイトハウス内の激しい葛藤場面と妙な違和感があり、
それほどリアリティも面白味もなく、
せっかく緊迫してやりあうホワイトハウス内のリアリティーを、
逆に削いでしまった感があるナ。
 それと、これは致し方ないとも思うのだが、
外国のオエライ方々を日本の役者が演じると、
どうも貫禄不足でオエラク見えない。
役者の皆さん、決して拙い演技をしているわけではないのだが、
全体華奢な我々日本人の肉体では、
おいそれアチラの権力や大企業トップの人間にはならん。
せめて衣裳やその着こなし、
身のこなしや物言いの工夫で、もう少し、
チットはオエラク見えるような気もするのだが…。
あまりチマチマ動かず、
キャンキャン叫んだり怒鳴らずにネ。
と、それなり観劇しての不満はあったのだが、
その不満を凌駕するほど話の内容がオモロかったので、
アッという間の二時間半でございました。
 ええ…、実はこの舞台、
寺田路恵という、オノレにとってオソロシイ、
オノレの実姉が出演しておりまして、
それもあって観に行ったのでありますが、
「ソ連問題担当補佐官」という、
チト厳めしい、強面の役をしておりましたですナ…、ハイ。

 夜は下北沢・ザ・スズナリで、
「れもん」(脚本・平田敏子)という舞台の観劇。
このところオノレは下北沢ばかり行っとるわい。
 詩人・彫刻家の高村光太郎、その妻・智恵子のお話で、
オノレが一目も二目もおく役者、柄本明が光太郎役、
石田えりという女優さんが智恵子役の二人芝居。
 かつてオノレは光太郎の詩に、
ずいぶん惹かれた時期があったのデス。
ま、今はそれほどでもないのでありますが、
若き頃、柄に似合わず詩集「智恵子抄」を座右の書にして、
よく諳んじ、感情移入しすぎて胸を熱くし、
そういう朗読で人に聞かせて恥をかいた。
 で、劇中、柄本明は何篇もの詩を朗読するが、
これはさすがである。余計な感情移入を一切しとらん。
もちろん、役者がお客に聞かせる詩の朗読会ではない。
劇の流れの中で、智恵子に聞かせたり、己が創作しながら、
「第三者のいない状況」で朗読するのである。
妙に朗々、情感タップリに読み上げてもチトおかしかろう。
それでも詩の朗読なんてえものは、
「これでいいのではないか」
「これこそが正しい朗読のあり方ではないか」、
と思わせる柄本明のロウドクであった。
淡々と、いかにもブッキラボウに朗読するのだが、
それでいて詩の内容がこちらにホドヨク伝わるのダ。
やはり柄本はタダモノではない役者である。
 とはいえ、チェホフの「煙草の害について」の一人芝居、
イヨネスコの「授業」の教授役、
ベケットの「ゴドーを待ちながら」等、その他の舞台で、
オノレに強烈な存在感と味を見せつけてくれた柄本と、
「れもん」の舞台を比べると、
今回の舞台にそれほどのインパクトは感じなかったナ。
脚本・演出や相手役との関係もあるのかもしれんが、
彼独特の「舞台台詞セリフッポク」ない、
まるで計算されてないかのごとく思える、
それでいてキチンと語意を客に届ける、
脈絡なさそうで、ありそうで、
やはりある、自然なシャベリ。
それがこの舞台では、
そういう柄本の強かな演技のサクリャクが、
策略としてオノレには観えてしまい、
随所に嘘ッポさを感じてしまったナ。
タマにはサルも木から落ちるか…。
今回タマタマ、己の「策」に溺れ過ぎたのではあるまいか?
最もこれは柄本が役創りをマチガエタというより、
脚本や演出のせいかもしれんなア…
どんどん「年月が変わりました」と、
出演者に語らせ、
イチイチお客に教えてくれる構成も忙しないし、
何より脚本と演出の焦点が、
オノレにはモヤーッと霞んでみえるような舞台であった。
 石田えりの智恵子は、
狂気を狂気として演じなかった点はヨカッタ。
けれどまだまだ演技に幅と深みが足りない…、
そんな風にオノレは思った。
 役者のお二人を見ていて、
柄本と石田が三歳ちがいの夫婦にナカナカ見えず、
どうも爺さんと孫娘みたいな感じだったので、
呆けはじめた老人と幼女の、
ママゴト遊びみたいな芝居にも感じたぜ。
アッ、実はそれがネライの舞台であったか!
それにしても石田がもう少し老けるとか、
柄本がダイタンに若づくりするとか、
工夫してみてもよかったのではアリマセンカネ?
 ゼニを払って観た半ボケ役者の、
カッテな御託なのでアリマス…、方々、オユルシアレ。
 


  FOXチャンネル 「ザ・プラクティス」
Date: 2004-12-16 (木)

 先週から来年一月末までオノレがする仕事に、
CS・FOXチャンネルで放送中の、
「ザ・プラクティス」という番組がある。
 アメリカのTV映画シリーズで、
小さな法律事務所で働く弁護士たちを舞台にしたドラマだ。
日本語版の収録は、すでに第8シーズンに入っており、
オノレの役が登場するのはエピソード・163話から。
アチラではエミー賞を二度も受賞している人気番組らしい。
確かに味も骨もある内容で、
人間模様の悲喜劇をオモロク見せる。
 ところでオノレの役はというと、
ドラマの中心になっている法律事務所とは別の、
チョイト変わった法律事務所代表・デニー・クレイン。
常に「デニー・クレイン!」「デニー・クレイン!」と、
己の名前を日本の代議士みたいに連呼する、
変テコというか、気取ってヤリ手の老弁護士。
このオッサン、
どうもアルツハイマーの症状が見られる様子なのであるが、
もちろん本人にその自覚は毛頭ない。
で、ナ、ナ、ナント!
この役を演じている役者が、
スタートレックでカーク船長を演じた、
あのウィリアム・シャトナー様!!
 いやもう、お歳を重ねてチトお肥り気味であったが、
その雄姿未だ衰えず、
現役の役者としてしっかり御健在の様子。
ホント、オノレは懐かしいというか、
複雑な心境というか…。
だってねえ、エンタープライズ初代船長の声を、
全く別作品とはいえ、
二代目艦長・ピカードの声を当てた、
このオノレが当てるんですぜ。
光栄というか、「あら、いいのかしら?」、
「初代の方に失礼ではないかしら…」
テナ気分にもなりますですよ…、はい。
 スタトレファンがこれを見たら、
おそらくオノレと同じような、
否、多分オノレ以上に不可思議で、
複雑な心境になるのでありましょうナ、多分。
放送後、FOXやインターネットの掲示板に、
ワイワイ抗議があっても、
オノレは責任持てませんですぜ…ハイ。
 それはさておき、とにかくオモロイ役どころなので、
オノレはノリノリでカーク様を、否、
デニー・クレインさんの声を当てておりますがネ。
 CSのFOXチャンネルを見られる御仁は、
時間があったら是非ごらんあれ!
が、163話の放送日をまだ調べてなかったナ…、
スンマッセン。

      「ザ・プラクティス」HP
http://www.foxjapan.com/tv/bangumi/the_practice/



  喪中葉書
Date: 2004-12-15 (水)

 このところ毎日のように、
喪中につき年末年始の挨拶を遠慮申し上げる旨の葉書が届く。
この一年を振り返ればオノレの知り合いも数人は亡くなっとる。
皆、五十代、六十代であった。
今年還暦を迎えちまったオノレとしても、
いまや「死」についてアレコレ考えるのは、
残された人生の、身近で重要なテーマである。
身近になってきた「死」についてオノレなりのテツガクを持つことは、
残された「生」をいかに過ごすかというテツガクを持つことでもある。
で、オノレには、世間にお伝えできるような、
立派な死生観の一つでもあるのか…。情けないけどアリマッセン。
まあ、オノレの最後がいつであれ、どないブザマな死様であれ、
神任せの運命論はスカンのだが、
死ぬ時期だけは天命に任せるより他ないのである。
しかし少なくとも元気に生きとるうちは、
役者として残された年月、どう「生きるか」を、
これからは日々より深くテツガクして生きるツモリである。
 さて本日、なんとオノレが人様の前で30分の講演をする。
知り合いに某市ロータリークラブの会員がいて、
是非にと頼まれ、イロイロお世話になったのでお断りもできず、
生まれて初めて、芝居ではない舞台でオシャベリする。
ドキドキ、ハラハラ、久し振りにオノレの心音が朝から強い。
テーマはご自由にというから、
人の「生死」について語ろうかとも思ったのだが、
まだテツガクがないのでヤメタ。
けっきょくオノレに無理のない「役者の個性」について、
出たとこ勝負にオシャベリしてこようと思っている。
「何事も経験」と引き受けてはみたが、
どうなることやらカミのみぞしる…なのだ!


  広島・三泊四日
Date: 2004-12-13 (月)

 先週、木曜日から日曜日までの広島見聞は、
まことに充実かつ楽しい三泊四日であった。
書物や映像なども大変参考になるが、オノレの足を運び、
現地で見たり聞いたりして得るものは、やはりインパクトがある。
 原爆ドームを筆頭に、爆心地周辺を半日かけて見て廻った。
来年、被爆して60年にもなる広島で、
はっきり人の目に見える容で残されている原爆遺跡は数少ない。
旧「広島県物産陳列館」であった原爆ドームは、
人の手によって為された罪深き過去の風化を許さんとばかり、
傷つき老いさらばえた骨をさらして必死に屹立しとったし、
今も生き延びている被爆アオギリの木は、過去の悲痛を叫びつつ、
生きとし生けるものの強靭な生命力をオノレに見せつける。
 原爆資料館で目にした数々の被爆資料を見ていると、
広島の原爆によって亡くなった20万人を超える死者の、
声なき無念の声が聞えてくるかのようであった。
見学者の中に何人かの米国人を見かけたが、
出来ることならこの資料を米国でも公開し、
アチラの多くの人に見てもらいたい。いや、見るべきである。
 被爆者の避難したお寺や、比治山の放射線影響研究所
(旧ABCC=原爆障害調査委員会)にも行ってきた。
 広島滞在の三日目は、今回すっかりお世話になった、
旧応援団氏のヨットに乗せてもらったので、
原爆関係巡りについやしたのは一日半。
まだまだゆっくり見たいところはあるのだが、
とにかくオノレなりにヒロシマの何かを感じ、臭いを嗅いだ。
それが来年の「象」にどう役立つかよくわからんが、
たぶんムダにはならんだろう。
 そうそう、竹原という所に行ったのだが、
昔ながらの家並みが残されて、風情と味がタップリの町であった。
 この三日間、何から何までお世話になった応援団氏とその奥方、
ムサイ年寄り相手に、
嫌な顔一つ見せず案内役をしてくれた心優しい息子殿。
西に足を向けて寝られんほどの感謝あるのみ。
ちっともハタラカズ、イロイロ我がままばかりでスンマッセン!
またオノレ夫婦にお付き合い下さった、
応援団氏の友人やヨット仲間の方々、
貴重な時間を割いてお付き合い下さりありがとう。
またお会い出来る日を愉しみにしとります!


  明日から広島へ
Date: 2004-12-08 (水)

 予定していた仕事がキャンセルになったり、
セミレギュラーの役が出ていなかったりで、
明日から三日間ポッカリとオフ。
そこで急遽、広島へ行くことにした。
来年8月公演の「象」が、被爆者の話であるから、
かねがね広島へ行ってブラブラしつつ、
その雰囲気の薄い匂いでもよいから嗅いで、
何かオノレの役創りに得るものがあれば…、
と思っていたのである。
 広島では、この10月に知己となった方のお世話になる。
旧大学応援団のこの方、ホンマに男クサク、
実直かつイロイロ教養もあるオモロイ御仁。
でオノレは、彼の息子さんとも親しくなってしまった。
息子さんは東京のスタイリスト関係の
専門校に通っている若者だが、
舞台の衣裳なんぞにチト興味がありそうな様子で、
これ幸いに「象」の衣裳担当を押し付けてしまった。
その彼が、明日からオノレの広島ブラブラ歩きに付き添って、
アチコチ水先案内人をしてくれる。
 土曜日には、旧応援団氏所有のヨットに乗せてもらう予定だが、
実はこれが一番心配なオノレである。
とにかくすぐ船酔いする性質だし、水大恐怖症のカナズチ。
それでも乗ったことのないヨットに乗る興味は抑え難いし、
そんなチャンスはナカナカないし…、
やはりしっかり防御して乗せていただくつもりである。
 それでは明日、行ってまいります!
 


  原爆一号
Date: 2004-12-03 (金)

 来年8月、
オノレが上演する「象」の参考になるかと思い、
「『原爆一号』といわれて」という本を読んだ。
1981年に初版されとるから、
被爆後36年過ぎて書かれた、
吉川(きっかわ)清さんという被爆者の著作である。
 別役実が「象」を発表したのが1962年。
この本が世に出る20年も前なのであるから、
別役はこの本を読んで「象」を書いたわけではない。
しかし別役実はこの吉川さんの存在を当然知っていたであろう。
そして多分この人の存在が、
「象」という作品を書くキッカケになったような気がする。
 吉川さんは被爆2年後に、(正確には1947年4月)
広島赤十字病院で外人記者団の取材に応じ、
その凄まじいケロイドの体を見せて、
「原爆一号」という記事に仕立てられ、
大きな衝撃と話題を当時の人々に与えたようだ。
その後、彼は被爆者救援運動、
原水禁運動に積極的にかかわり、
何度も自身のケロイドをさらしつつ、写真に撮られ、
新藤兼人監督の「原爆の子」という映画はじめ、
数々の原爆にかかわる映画製作に協力したり、
幾つかの映画の中ではケロイド姿で出演もしている。
筆舌に尽くせぬ悲惨な波乱万丈の人生…。
「『原爆一号』といわれて」という本には、
その吉川さんが、まさに地獄を「生き抜いた」、
波乱の半生が綴られている。
 この吉川さんと、
別役の「象」に出てくる被爆者の病人とは、
おおよそイコールするものではない。
また「象」は被爆者の救済や支援を直截に訴える内容でも、
通り一遍の原爆批判劇でもない。
被爆者という人物設定の現実を踏まえ、さらにそこを超え、
人が生死(しょうじ)に立ち向かうことの意味と姿勢を、
お客に淡々と、時に厳しく、
劇的に問いかける芝居である…と、
ここまでのオノレは思っとる。
もっとも来年稽古に入る頃は、
またチガッタ見方になっとるかも知れませんがネ。
 吉川さんの本は既に絶版だと思うが、
それほど大きな図書館でなくても置いてあるようだ。
「ちくまぶっくす」の単行本で、
原爆、被爆に関心のある方には一読をお薦めする。
 来年オノレが「象」で演じる病人役は、
道に立って己のそのケロイドを、
見世物のごとく人々にさらして生きてきた男である。
吉川さんもケロイドをさらして人々に衝撃を与えたが、
見世物にするためにした行為ではない。
 本の中の一節を紹介して今日の日記を終わる。

 私は観光バス会社に頼まれて、
原爆ドームを訪れる観光客に、
私の被爆体験を話す仕事をしていた。
ケロイドといってもどんなものかを知っている人は
ほとんどなかった。
それで私は、腕にある大きなケロイドを見せて、
原爆の恐ろしさを説明することもあった。
私としては、私の体に焼きついた、
醜いケロイドを見せることによって、
一人でも多くの人に原爆の恐ろしさを
事実によって知ってもらいたかった。そしてそれが、
原爆反対と平和へとつながってゆくと
考えていたのであった。
しかし少なからぬ人たちからは、
「吉川は自分のケロイドを売り物にしている。」と
批難された。
そしてそういううわさはかなり広がっているらしかった。
私が度々東京や関西に出かけていることも、
批難、悪口のもとであった。
「ピカの話をしただけで、ゼニになるんじゃけんのお。」
とあからさまにいう者もあった。
東京や大阪に旅行することさえ、ままならぬ時代であった。
羨望と嫉妬を一身にうけても、
いたし方なかったのかもしれなかった。
しかし、何といわれようとも、
私はこのことをやめるわけにはいかなかった。
私には使命感があった…。


  道学先生 「酒坊ちゃん」
Date: 2004-12-02 (木)

 夜、道学先生「酒坊ちゃん」(作・中島淳彦)を、
新宿シアター・トップスで観劇。
オノレの良き仕事仲間であり、友人の辻親八が出演している。
彼はすっかりこの劇団の常連出演者となったようだが、
そのおかげでオノレもこの劇団の常連客とナッチマッタ。
 いや、マイッタネ。
カケネなし、今夜の舞台は面白く素晴らしい出来である。
オノレは幕開けから抵抗なくドラマの世界に入り込み、
すべての愛すべき登場人物たちに共感し、思わず笑って泣いた。
オノレは先週この日記で、今年オノレの観た舞台のNO1に、
青年座の「空」をあげたが、
「酒坊ちゃん」はその舞台と双璧に完成度の高い舞台である。
 厳しい経営の中で頑張っている酒問屋の社長が、
かつて自分のアルコール依存症がもとで妻に先立たれ、
その罪滅ぼしに「断酒」の会を始める。
その会に入って酒を断とうと悪戦苦闘、
頑張って立ち直ろうとする人たちの物語。
アルコール依存症で暴力沙汰が日常茶飯の夫婦。
遠く九州から愛する妻と子供を置いて酒断ちに来た男。
「美空ひばりファンクラブ」で知り合った女と結婚し、
息子も二人いる「ひばり神様」男は、
酒で離婚の憂目にあい、せっせと子供に手紙を書く毎日。
アルチュウで激しく手が震え仕事にならないマジシャン…、
とまあ、「サケにキズ持つ」これらの登場人物たちが、
人生の喜怒哀楽をタップリ見せてくれる芝居だ。
で、この酒問屋にフラリとやって来た、
アルチュウではない若者の、青春の挫折と立ち直りが、
ストーリーの核となって物語は展開する。
 それにしても役者の皆さんが上手い。
脚本が良いと役者もあんなに上手く見えるのかネ。
いや、そんなことはないだろう。
脚本が良くても役者が上手くない芝居を、
これまでオノレはタップリ見ているのダ。
今日の役者は、皆個性的かつ自然な演技の中に、
それぞれの「役魂」をもシッカリ入れとる。
中でも九州のナサケナイ男を演じた井之上隆志という役者、
こいつはもうトンデモネエ上手さである。
今は解散した「カクスコ」とかいう劇団にいたらしい。
以前の道学先生の芝居で初めて彼を観たときも、
その達者な演技に驚かされたもんだが、
また今夜さらにビックラ・コイテ・シマッタ!
独特の軽妙・洒脱な物言いと動き。
テンポのよさ、間のよさ、台詞の軽重をとらえる確かさ…、
チト非の打ち所がなくて末恐ろしい役者である。
 今夜の舞台に関わった全てのスタッフ・キャストに、
オノレは万雷の拍手を送り、これから美味い酒を飲む。


  青年座・創立50周年記念公演を全て観劇
Date: 2004-12-01 (水)

 結局、青年座・創立50周年記念公演、
5作品の全てを観てしまった。
 本日の昼、
「桜姫東文章」(作・鶴屋南北)を観て打ち止め予定が、
終演後入った中華料理屋で青年座の連中と鉢合わせ。
で、唯一観てない、
「深川安楽亭」(原作・山本周五郎)もオモロイと誘われ、
誘惑に弱いオノレは、
紹興酒で酔った勢いまかせに観てしまった。
 
 さて、昼の「桜姫東文章」は、
OFF・OFFシアターでの上演。
来年オノレは、自身のプロデュース・主演作品、
別役実・作の「象」をこの小劇場で8月にする。
 20人もの出演者がいる時代劇を、
あの狭いスぺースで青年座がどないに上演するのか、
その偵察を兼ねて興味津々、
「象」を演出する伊藤勝昭氏共々観劇したのである。
やはり随分来年の参考になり、
その点では観ておいてよかった。
が、芝居そのものは観んでもヨカッタ…。
 本来、4時間を超える話を2時間に縮めているらしい。
そのせいか話の展開がダイタンにすっ飛び、
観ているオノレもダイタンに想像したのであったが、
終始細かい話の筋道がよくつかめんかった。
ま、南北ものや近松のような世界を、
正攻法にシリアスにやったら、
とても歌舞伎や商業演劇、前進座などにかなわんもんナ。
劇団のかような弱点を、
企画や演出した方々はよく理解しているのであろう。
大胆に台本をアレンジ、女だけの出演者であるからして、
もちろん男役も女優が演じる。
宝塚に負けじとばかり、
メリハリのきいたハデメークと、無国籍な衣裳を纏わせ、
狭い舞台を入れ代わり立ち代り、
激しく動いて激しく咆哮、
感情移入タップリの女優パフォーマンス。
オノレはその強烈な匂いとエネルギーにゲップが出て、
目眩するほど疲れましたです…、ハイ。
ま、よくいえば今風アバンギャルドな舞台なのかもしれんが、
たぶん、そう創るより他に手がなかった…、
というのが本音なのではあるまいか?
 50周年を飾る公演の一つに、
何故このような作品を選んだのか、
チト首を傾げて劇場を出たオノレでありました。
 それにしても若手からベテランまで、
ハゲシク精一杯演じた女優の方々、
ほんとうにオツカレサマでした。

 夜、紹興酒に酔いつつ観た、
「深川安楽亭」はザ・スズナリでの公演。
 無宿のようなを男が出入りする居酒屋「安楽亭」を舞台に、
江戸時代の市井の人々を描いた、
山本周五郎〈十八番〉の人情話だ。
いわばゴーリキーの「どん底」、
日本版といったような世界かな…。
 紹興酒を3合ほど飲んどったオノレは、
酔いと睡魔でクラクラしつつ、何とか眠らず最後まで観た。
やはり芝居は素面で観ないとアカン。
一生懸命、真面目に上演している俳優、スタッフにも失礼だし、
感想も言う資格がない。
だから酔いつつ観た感想はあるのだが、
それはお蔵にイタシマス。
と、お断わりした舌の根も渇かぬうちに一つだけ。
 昼の南北芝居の感想と重なるが、
新劇の若手が、かような江戸人情話を、
堂々正攻法に取り組んで挑戦するなら、
相当しっかり稽古して、かつ余ほど巧みに演出せんとツライ。
歌舞伎や商業演劇、前進座などの舞台にはとてもかなわん。
チトそちら育ちのオノレとして、
この手の名舞台、名演技をずいぶん観てきた。
今後も青年座がこういう舞台を上演していくなら、
歌舞伎座や国立劇場、前進座劇場といったところへ、
労を惜しまず、足繁く通ってケンキュウして頂きたい…。
余計なお世話を敢えて一言…酔って観劇、スンマッセン。