オノレ日記帳

2005年6月の記録



  目ざすは数字は〈1200〉
Date: 2005-06-27 (月)

 8月「象」の公演まで、およそ40日になった。
立稽古の正念場はまだまだ先であろう。
しかしチケットの申し込みはこの時期としては悪くない。
この先、関係者一同の力で、全17回の公演、
一人でも多くのお客様に観てもらえれば…。
そのためにも、関係者が自信をもって、
お客様にチケット購入をお願いできる舞台を創ることだ。
ともかく全ステージを満席にするには、
およそ1200人ものお客様に来てもらわにゃならん。
結果としてムリな数字かもしれんが、
この数字がプロデューサーとしてのオノレの目ざす数字である。
オノレのごとき素人同然のプロデューサにとって、
この数字の実現は、まことに容易くない数字である。
しかし誰でもない、オノレが決意してやる公演なんだからネ。
泣きごとなんぞ言っとれんわい。
そう、ヤマノカミもこれまでになく制作の一人として頑張っとる。
オノレもプロデューサーとして出来るだけの手を尽くし、
役者としてオノレの限界ギリギリの、
創造的努力に挑戦せにゃならん!
 皆々様、改めて応援のほど、よろしくお願い致します!!


  男の日傘
Date: 2005-06-26 (日)

 ねえ、まだ…六月だろ?
なんじゃ、この暑さは!
今年は空ッ梅雨で猛暑かい?
もう、いやんなっちゃうなあ…!
この夏、八月の芝居が終わるまで、
オノレは日焼けできんのよ。
「象」でオノレが演じる病人は、
十年以上もベッドに伏した病人なのよ。
そんなヤツが日焼けしとったらアカンでしょ?
まして裸になるシーンがあるから、
顔や首、腕だけ焼けて、
胸や背中はマッ白てえわけにはいかんのじゃ。
(残念ながらスッ裸ではありませんのよッ!!)
で、オノレは日焼けを避けるため、
このクソ暑い中、長袖のワイシャツ着て、
日傘をさして外出してるのよ!
こりゃッ、お天道さん。
このチト恥ずかしく、辛いオノレの気分を察しておくれ?
 ところがさ!
おかげで突然、夕立や雷雨にあってもヘッチャラなのよ。
それに日傘は、ほんに涼しいてえことまで発見したのよ。
オノレは世の男たちに訴えることにした。
女に負けず、カッコよく男の日傘をさして、
堂々と世間の道を歩こうよ!
 今日、オノレの頭は、いつにもましてオカシイ気がする。

「紳士用日傘なんて売ってるのかい?」という、
アホな電話をちょうだいしました。
「まず売ってねえんでねえかい?」
 オノレは半信半疑で返事した。
いや、例え売る時代がきたとしても、
男の日傘は雨傘でよいッ!!


  シアターX 「花も嵐も旅芝居」
Date: 2005-06-25 (土)

 両国・シアターXで「花も嵐も旅芝居」を観劇。
コメディオンザボードというグループの公演。
 このグループは故マルセ太郎さんとの関わりが深く、
この芝居の原作もマルセさん。
1997年「役者の仕事」というタイトルで上演された台本を、
大幅に改ざんし上演したようだ。
で、オノレは初演も観ているのだが、
やはり舞台を観ての印象は、初演とずいぶん異なった。
正直、初演の「爆笑」はナイ。
 今回の舞台で初演に出とった人は五人くらいか?
初演の演出はマルセさんで、自身、出演もしとった。
 座員に逃げられた大衆演劇の座長と、
その窮状に手を差し伸べる小屋主や、
老人ホームの年寄りたちとのドタバタ人情劇…、
てえところなんだが、イマイチ、
客席から舞台にのめりこめないんだよナ。
ひょっとして、いろいろ盛り込みすぎちまったのではないか?
どうも改ざんが、あまりうまくハマッた感じがしなかった。
もう一つノリきれん要因に、
シアターXという劇場空間のせいもあったんだろうか?
オノレは、妙に客席から舞台が遠く感じたんだよナ。
初演は下北沢のザ・スズナリだったんだが、
役者の汗や唾まで、客席にとんできそうな、
舞台と客席とが混然としながら溶け込む一体感があった。
大衆演劇の泥臭い、アヤシイ雰囲気に満ちて、
およそ抵抗なく、オノレは芝居にノセられていた。
 ま、それはともかく、マルセ太郎の世界を受け継ぐ皆さんに、
マルセならではの、わかりやすい、笑いも涙も、
チト毒のある社会風刺にもみちた舞台を、
今後もずっと上演しつづけていただきたい。
できれば再演のたび、よりよくパワーアップさせてね!
 オノレは大いに期待しております。


  劇団民藝公演 「山猫理髪店」
Date: 2005-06-23 (木)

 新宿・紀伊国屋サザンシアターで、
劇団民藝公演「山猫理髪店」を観劇。
 別役実が1998年に書いた戯曲で、
1999年に三木のり平・主演で上演され、
これがのり平、最後の舞台だったようである。
今回はその役を大滝秀治が演じとる。
 民藝はオノレが若かりし頃、
11年ほど在籍した劇団であり、
新劇という世界のナンタルカを教えてもらった恩ある劇団。
それだけにナカナカ批評はしずらい。
ただ、オノレのいる頃の民藝は、
別役作品の上演など、およそ考えられんかったから、
時代も変われば変わるものである。
 舞台は下関の海峡にのぞむ、
「山猫バーバー」という古ぼけた理髪店。
この店の親方と見習いの男。
親方の妻のような、そうでないような女。
娘のような、娘でないような若い女。
北海道の炭鉱から来た男やら、
この店を競売で買ったという夫婦らが登場し、
別役ならではの不条理で不安にみちた、
毒のある笑いたっぷりなドラマが展開する…、
はずなんだが。
どうもその面白さを予感させるのは始まりの20分だけ。
ドラマが進むほどに、面白さは尻すぼみで、
オノレはあまり面白くなくなっちまったぜ。
しかしこれは戯曲のせいというより、
演出と役者の問題だったのではあるまいか…と、
オノレは思った。
 話の底流に、かつての戦争で強制連行され、
日本の炭鉱で働かされた朝鮮人の、
実に重いテーマが沈殿している。
で、その重いテーマを際立たせるためなのか、
民藝の役者は、あまりに生真面目に演じすぎとるのでは?
とにかく舞台全体が妙に沈んで、
テンポも悪く弾まんのだ。
 その中で唯一、
女1の塩屋洋子が好演しとってビックラコイタ。
30数年ぶりにこの人の演技を観たんだが、
あまり上手い女優さんではないと、
オノレは勝手に思い込んでいたのであります。
人は30年もたてばずいぶん変わるぜ…、オユルシアレ。
 大滝さんは、オノレなんぞ足下にも及ばん、
味のある、いい役者だ。が、今日の舞台に限っていえば、
どうにも台詞が聞き取れなくてイライラした。
八十というお歳のせいもあるかと思うが、
あの独特のかすれ声で静かに喋ると、残念無念、
何を言っとるのか、よう分からんところが多々ある。
(オノレの耳が遠くなったのではあるまいかと…、
チト不安になったし、事実、そうなのかも!)
ま、この8月。オノレが公演する、
OFF・OFFシアターのような小劇場なら、
今日のイライラはなかったのかもしれんし、
まるで異なる感想になったのかもしれんナ。
(それでも八十で、あの動きと台詞憶えは大したものです)
 オノレの当てにならん観劇評はさておき、
我が懐かしき民藝が別役作品を初めてとりあげ、
その世界に挑戦した心意気。
もう、オノレはそれだけでも、
心から惜しみない拍手を送りたいのだ!


  アニメ新番組 「ぱにぽに・だっしゅ」
Date: 2005-06-22 (水)

 今日は夕方から、
アニメの新番組「ぱにぽに・だっしゅ」の音声収録。
ギャグたっぷりのオモロイ作品だが、
若くカワユイ声優のお嬢さまたちに囲まれて、
一時間もスタジオの中にいるとムンムン・ムンムン…。
メマイを起こしそうなのであります。
 オノレの役はエイリアンのズッコケ艦長役。
役とスタジオのフンイキを大いに愉しみつつ、
マジメにやらせていただいておる。 
 テレビ東京系にて7月3日〜毎週日曜日深夜25:30放映!


  『象』 稽古場メモ
Date: 2005-06-21 (火)

 立稽古の初日。
動きを入れて稽古をすると、
本読みだけではつかめなかったことがいかに多いか、
あらためて気づく。
それまでオノレの頭の中だけでイメージしとった、
ドラマの流れ、相手役との関係、
台詞のやりとりなどがより具体的に立ち上がる。
結果として定着するかどうかはさておき、
オノレが考えてもいなかった、
思いつきのハプニング的表現が、
次々に生まれたりもする。
反面、役者同士の呼吸(イキ)はなかなか合わんし、
動きもギクシャクギクシャク。
シッカリ憶えたはずの台詞もすんなりとは出てこない。
この先、芝居全体が生き生き見えてくるまで、
辛い苦しい稽古がしばらく続くだろう。
それでも何十年振りに人と絡む立稽古は、
オノレにとって強烈に新鮮で愉しい時間であった。
こんな気持ちのよい玉の汗を、
オノレはおよそ二ヵ月半もかき続けることができるのだ。
 シアワセ!


  ホタルブクロ
Date: 2005-06-20 (月)

  宵月を蛍袋の花でさす  中村 草田男
 
 ずいぶん前から、自宅ベランダ・鉢植えに、
ホタルブクロがいくつも咲いとる。
薄紫にしおらしくうつむき、
はにかんで咲いているこの花の姿は、何となくいじらしい。
一輪だけじっと見ていると、
いい歳した寡婦が再婚するときのような、
奥ゆかしい艶を感じて、オノレはうっとり。
「オイ、ヤマノカミ…。デジカメで撮ってやるから、
薄紫の浴衣があったらチョイと着て、
ホタルブクロの脇に立ってみんかい?」
 オノレの発言に耳をふさいで、
我が家のドラ息子、カラスのタイちゃんと、
妙チキリンな会話をしているヤマノカミであった!

  寡婦九人釣鐘草の中におる  麦  人
 


  コクーン歌舞伎 「桜姫 」
Date: 2005-06-19 (日)

 友人たちの評判が余りにいいので、
渋谷・シアターコクーンのコクーン歌舞伎、
「桜姫」(作・鶴屋南北)を何とか観劇。
12,600円のチケット代を払っておりますので、
それに見合う「オカネ」をかけて、
客を楽しませてくれるのはアタリマエデス。
で、ほぼ退屈せんで3時間半、「見た」。
(「観た」という感じではない。)
 とにかく忙しく舞台を動かして、
次々仕掛けて見せるショー的面白さが、
コクーン歌舞伎の「売り」なんだろう。
しかし元気な頃の市川猿之助が、
スーパー歌舞伎ではない歌舞伎の舞台で、
外連(ケレン)たっぷり、
凄みタップリに観せてくれる歌舞伎のほうが、
どちらかといえばオノレ好み。
例えば「義経千本桜」とか「黒塚」とかネ。
 桜姫の中村福助はチト咽喉を痛めとったんかい?
高音が嗄れて苦しそうだったし、
台詞が不明瞭なところが随所にあった。
ホンマ、玉三郎とはちがう魅力のある、
「美しい女形」なんだが、
今日の舞台の台詞はイタダケナカッタ。
 桟敷の客の間を何度も役者が通る演出も、
あまりイタダケナイ。
客いじりする舞台をあまり好ましいと思わん、
オノレのセイカクもあるのでしょうが…。
 とにかく中村扇雀がオモロカッタ!
オノレもこの人みたいに、
心から役を愉しんで演じているかのように、
客席からそう見えるように、
やれるものならヤリタイノデス。


  『象』 稽古場メモ
Date: 2005-06-18 (土)

 役者として、多くの出演者と共に稽古し創ることは、
こんなにムツカシク、厳しく、愉しいことなんだと、
いまさらながら体感している。
長い間、一人で演じることだけにこだわってきたオノレであるが、
そのことによって失っていたものの大きさに、
チト唖然としないでもない。

 今日の本読稽古で、演出家から一つの大きなダメを頂戴した。
さらに休憩時間、妻役の森田さんから、
そのダメを表現としてどう解決すればよいか、
具体的で説得力のある貴重な意見をいただき、
目からウロコが落ちたように思えた。 
役者はともすると近視眼的役創りになりがちである。
一度オノレの頭にこびりついた固定概念をなかなか払拭できず、
視野狭窄の状態になってしまう。
独り舞台ではこの状態を突き破るのが至難の技なんだが、
今回のように、演出・スタッフをはじめ、
多くの役者の意見が聞ける場では、
悪いかたちでこびりついちまったオノレの概念を、
案外大胆に破る試みもできる。
恥をおそれず、人の意見を謙虚に聞く姿勢が大切だ!
そして、オノレの創造的欠点をさらしてもよいから、
大胆な発想の転換に挑戦すること!

 公演主催者のオノレに遠慮して、
皆が本音の意見を言えんような稽古場にしては絶対アカン!


  馴染みの店
Date: 2005-06-15 (水)

 昨夜はヤマノカミと吉祥寺に出て、
チト「象」に必要なものを買物し、懇意の飲み屋へ行った。
この店のママさんは、オノレが一人芝居活動を始めて以来、
すべての公演を観てくれとる。
公演のチラシを十枚ほどあずけ、久しぶりに日本酒を嗜み、
ほろ酔い気分で家に帰った。
このように顔を出してチラシを渡さにゃならん馴染みの店は、
まだ他にもいくつかある。
で、たいてい一、二枚。
たまには四、五枚のチケットを買ってくれたりするんだが、
もちろん飲み代はタダではない。
さらに公演後、
観ていただいた御礼をかねて再び飲みに行かにゃならん。
するとおおよそチケットの売り上げより、
飲み代のほうが高くなッちまって、帳尻はいつも赤字。
馴染みの店とのお付き合いも、まことに辛い面がある。
が、まあ美味い酒と肴を腹におさめて、
かつ観劇のキビシイご意見や、
アタタカイ感想までもゴチソウしてくれるんだからネ。
やはり「アリガタイお付き合い」なんだと、
ほんのチット、見合わない勘定を計算しつつ、
お店のママやらマスターやらに、
心からの感謝をしているオノレである。



  ノッペラボウ
Date: 2005-06-14 (火)

 オノレは数日前、
「エイッ」とばかり気合を入れて、まゆ毛をすっかり剃ッちまった。
ええ歳こいて暴走族を気どろうってえんじゃない。
八月公演「象」の病人役を演じるのに、
まゆ毛のない顔にしたら「どないもんかい?」と考えたからである。
早速ためしにゾリゾリやって、
平安時代の御公家さんのごとき気品にみちた表情で…。
いやいや、あんな気品は微塵もない、
タチの悪そうな細目ばかり異常に目立つ、
我ながらオソロシイ、ノッペラボウな顔に変貌しちまった!
 公演まぎわに剃ったのでは、
「剃らねばよかった」と後悔しても手遅れ。
今剃る分には、眉毛のある、
フツウの顔で演じたほうがよいと判断した場合、
まだまだとりかえしがつくからな。
一月もすればオノレ本来の、
ショミンテキなヤサシイ顔にもどるのではないか?
で、この数日考えて、オノレはすでに結論をだした。
やはりノッペラボウはやめておこう。
どうも類型的演技の落とし穴にハマリそうな気がするし、
あまりにこの顔は、オノレの顔といえども怖すぎてヨクナイ。
 このところ道を歩いても、電車に乗っても、
なじみの仕事場でさえも、人から不審な視線を感じる。
不審かつオソロシ気な眼差しの視線を…。
 ことほどさように人というのは、まゆ毛がないてえだけで、
生きる環境がガラリと変わッちまうんだよな。
それがよくわかっただけでも、
このまゆ毛を落とした甲斐があったぜ。
 ここしばらく、このオソロシイ面相を首にのせて、
オノレはツライ日々を送らにゃならん。


  新宿の夜
Date: 2005-06-13 (月)

 数日前、梅雨入り宣言されたようだが、
それから雨はあまり降っとらんナ。
今年は空梅雨になるのであろうか?
 昨夜は広島の川村ちゃんが上京、新宿でシタタカ飲んだ。
彼はシアターコクーンの歌舞伎「桜姫」(作・鶴屋南北)を観て、
どえらく感動しとったぜ。
とくに桜姫役の中村福助の演技にビックラこいてた。
 このところオノレが観る舞台はどうもアタラン。
いま一つ心うたれる舞台がない。
そういうアタラン観劇がどこの公演であったか、
これからはナイショ…、なるたけ日記帳に掲載せんことにした。
 さて、新宿の飲み席には、
広島出身の若き女性演出家・若月理子ちゃん。
「象」で衣裳と死体役をしてくれる、
川村ちゃんの長男・勇太君。
そしてこの七月、「父と暮らせば」の父親役に挑戦する、
我が愛すべき「ケン友」(喧嘩友達のことであります)の辻親八も、
稽古を終えてから加わりまして、ケンケン諤々と盛り上がった。
怒ったり、励ましたり、広島弁のベンキョーしたり…、
もうタイヘンドラマチックな酒席であった。
おかげで時を忘れ、危うく終電に乗り遅れそうになったが、
久しぶりに新宿で愉しくほえて、
大いに発散させていただきやしたです…ハイ。


  『 オノレ日記帳 』
Date: 2005-06-09 (木)

 『オノレ日記帳』を書きはじめたのが去年の6月20日。
あと10日でちょうど一年になる。
チョコチョコ書かない日もあったが、ナントカここまで続けた。
で、オノレの不細工な日記の項目を追うと、
たった一年とはいえ、こんなぐうたらなヤツでも、
365日の中には様々なことがあって、
いろいろなことを考えとるわい…と、つくづく思う。
今読むと恥ずかしく、削除しちまいたい日記もあるのだが、
しょせんそれもふくめてオノレというヤツなんだ。
エエカッコしてもサマにならんし、
「しょうがあんめえ」とオノレに言い聞かせ、
今日のところは削除するのを思いとどまった次第。
 さて、この先どれだけ掲載を続けられるか…。
あまり自信はないのだが、
ムリにエエカッコで書こうとしなければまだダイジョウブカナ?
いずれにせよ「象」の稽古に突入し、
毎日書くのはシンドクなる…と、思っている。


  漫画 「夕凪の街 桜の国」( こうの史代・作)
Date: 2005-06-06 (月)

 いよいよ明日は「象」の初顔合わせ。
一月に出演者・スタッフ全員そろって懇親会をしとるが、
あれはあくまで親睦を深めるための飲み会。
明日からがいよいよ8月の本番へ向けてのスタート。
オノレの胸は、運動会の朝を待つ少年のようにときめいとる。
 先日、「象」でオノレの甥っ子役をする蓮池龍三君から、
「一冊の漫画が面白く、『象』の役創りをする参考になった」、
というFAXをもらった。
こうの史代・作「夕凪の街 桜の国」(双葉社)という漫画である。
早速購入、読ませていただき、ホンマに心うたれた。
 オノレは漫画離れがまことに早く、
中学生になってからは、それほど漫画を読んどらん。
いや、漫画に厭きたからってえわけでもないんだ。
中卒ですぐ大人の社会に飛び込んじまったから、
「年上のヤツラに負けてなるもんか」と、
突ッ張りながら生きるのに必死てえか、無我夢中。
漫画を読むゆとりさえ、いつのまにか失っちまったんだな。
 さて、40数年ぶりに漫画を買ったのであるが、
実に漫画の世界も侮れん、
人の心を突き動かす力をもったすげえ世界なんだと、
こうのさんの作品を読んでいまさら思った。
 これから読む人もいるかもしれんので、
あまり内容の詳細をバラすのはやめておくが、
井上ひさしの戯曲「父と暮らせば」と似たシチュエーションがあり、
同質の感動、説得力がある。
 広島の被爆した人の心を、主に主人公の少女をとおして、
しみじみと、淡々と、日常的に描いとる。
思春期の少女の、繊細でやさしい心象風景は、
ズシリと重いメッセージをオノレにとどけてくれた。
『夕凪の街』の終わりちかく、原爆病で死ぬ寸前の少女が、
<十年経ったけど
原爆を落とした人はわたしを見て
「やった! またひとり殺せた」
とちゃんと思うてくれとる?》と語る独白。
この少女の想いは、オノレの心を衝撃的に打った。
そしてボロボロ泣けちまった。
  「夕凪の街 桜の国」は、
手塚治虫文化賞やら、いろいろな賞を受けとる。
また映画化も決定したようだ。
 さて、明日からスタートする「象」も、
こういう作品に劣らぬ、よい舞台にシタイゼ…!


  ホクサンバスオール
Date: 2005-06-03 (金)

 夢てえのは、忘却した遠い過去を、
かなたの記憶の底から突然よみがえらせることがある。
 今朝「ホクサンバスオール」の夢をみた。
これは昭和38年頃、日本で最初につくられたユニットバスらしいが、
ようするにビジネスホテルの浴槽部分だけを独立させた、
箱型の風呂てえところかな。
(大きさは、半畳位のやつと一畳くらいのとあったが、
オノレはもちろん安い半畳のを購入した)
片側、腰から上くらいの部分が大きく開いて出入口。
そこから「ヨイコラショ」と足を持ち上げて浴槽に潜入し、
湯に浸かってビニールシートのカーテンを閉める。
体は浴槽上に蛇腹のスノコみたいなヤツを敷き、
その上で胡坐をかいて洗った。
もちろん浴槽部分の上にいるんだから、洗浄中の直立はできん。
手をひろげることもままならんし、
そりゃまあ、狭いトイレのような空間でゴシゴシ・ゴシゴシ…、
芋虫のごとく体をよじってアチコチ洗ったのでござんすヨ。
しかし、当時自宅に風呂のない身にとって、
このバスオールは感動的にありがたかったネ。
狭い台所の片隅、半畳ほどのスペースもあれば置けたし、
何より銭湯の営業時間外でも、好きなとき湯に入れる。
おそろしく不規則な生活であった若きオノレにとって、
車をもつよりはるかに現実的で嬉しい買物だった。
さらに嬉しかったのは、
湯を出て、チト上せた内臓にしみわたるビールの味。
うめえの何のって…これぞ極楽、至福のときであった。
 さて、当時このバスオールをいくらで買ったか記憶にない。
間違いなく高い買い物であったと思うが、にもかかわらず、
月賦(ローンではナカッタ)で購入しのは、
何もオノレが美味いビールを飲むためではなかった。
そう、チト告白しにくいのだが、
オノレとかつてのヨメさんとの間に生まれた、
一粒種の赤ちゃんのためであった。
 今朝みた夢の中で、狭いバスオールの湯ぶねに、
オノレは赤ちゃんをシッカリ抱いて、
幸せそうに笑いながら入ッとった。
はてさて、オノレはこげに子煩悩でやさしい親であったか?
もちろん…ナカッタ。