昨夜観た劇団昴「チャリング・クロス街84番地」は佳作であった。
主人公はニューヨークに住むドラマ作家の女と、
ロンドンの書店街にある古書店の万事を預かる番頭さんのような男。
イギリス文学にのめりこむ女・ヘレーンは、
その雰囲気と匂いだけでも感じたいがため、
遠いロンドンの古書店に読みたい本を次から次に注文する。
古書店の番頭フランクは、その注文の手紙に律儀に応え、
在庫のものはすぐ発送し、在庫のないものでも記憶に留め、
また仕入れればその都度送品する。
イギリス人らしい誠実さと感謝をこめた礼状をそえて。
この二人の、20年に及ぶ古書注文と、
交わされた手紙のやりとりを描いた舞台である。
原作はヘレーン・ハンフ。彼女の実話小説のようだ。
パンフレットに寄稿した出久根達郎さんの文を拝借すれば、
(出久根さんは「佃島ふたり書房」の直木賞作家。
オノレもこの作品を面白く読んだ一人であるが、
実際古本屋のオヤジでもある。)
《波乱万丈の活劇が展開するわけではない。
甘く、切ない恋が語られるわけでもない。
客と古本屋の手紙で構成されただけの作品が、
なぜ読む者を感動させるのだろうか。》という原作らしい。
さて、オノレにとってこの芝居は、
人の誠意・信頼・まごころ…みたいなことをしみじみ思い、
冷たいだけではない世の中を感じる暖かい感動があった。
開演から最後の幕が下りるまで、
ほのかに品の良い香水のごとき匂いに満たされた空間、
そんな中で過ごした2時間20分だったような気がする。
出演者も皆さん好演しとった。演出も良い。
開幕したとき、高い本棚にビッシリ埋まった古書の舞台装置に、
「おおーッ!」と目を剥いたオノレであったが、
風格のある古書の匂いが鼻をつくかのような、
何処か懐かしい雰囲気に、我しらず溶け込んでいたのである。
そう、ひとつ贅沢な注文をすれば、
20年にも亘る歳月の流れ…。
これをもうすこし感じさせてほしかったな。
ところで千石の三百人劇場は、
ホント、客にとって観やすいし、
落ち着いて舞台に集中できる空間だよ。
今年一杯で閉鎖・取り壊され、マンションになっちまうようだが、
貧しい日本文化のためにも、何とかならんのかい!