大下英治という人が書いた実録本、
「知られざる渥美清」を読む。
もちろんオノレは、映画やTVで活躍した役者・渥美清の大フアン。
しかしこの本は、そういう渥美清だけではない、
人間・渥美清の実像を丁寧に取材し書いており、
なかなか面白く読み応えがある。
なぜか書店に山積みされとる、
風が吹けばソヨソヨ飛んでなくなりそうなタレント本ではない。
売れはじめた渥美に、マネージャーが危惧を感じ、
「テレビに出すぎるのは気をつけたほうがいいのでは」と言う。
渥美が答える。
「おれの住んでいる四畳半の部屋の壁にはな、
こう、おれを取り囲むように一面に紙が張ってあるんだよ。
その紙にはな、一年のスケジュールが全部書き込めるようになっている。
売れないときには、この紙が真っ白のままでね。
それは、さびしいよぉッ。
おれは畳の上に寝そべって、それを見ながら、
いつかはこれをまっ黒にしてやるんだっていい聞かせてきた。
ところが、どうだい。いまや、スケジュールは、まっ黒だ。
でもな、なんか、これじゃあいけないような気がしたんだ。
今度は、逆に、白いところ多くしようって、
考えなおしていたところなんだ」(一部省略)
自分のマネージャーのアドバイスに耳を傾け、
それに誠実に答える渥美の、
人間としての器の大きさを感じると同時に、
役者としての資質の深さをも感じるエピソードである。