オノレ日記帳

2007年5月の記録



  安保廣信さんを「偲ぶ会」。
Date: 2007-05-27 (日)
 今日は、この三月に逝去した劇作家・安保廣信さんを「偲ぶ会」。
オノレは、自分からみた安保さんの「人となり」を、
会の冒頭で皆さんにお話しする大役を仰せつかった。
歳を重ねるにつけ涙もろくなったオノレは、
感情を抑制してチャンとお話できるかチト心配である。
かくもオノレにとって、安保さんとの思い出は大きく重たい。
 オノレに、近松門左衛門の言葉、
「虚は実なり、実は虚なり」を引用し、
芝居や役者のあり方を懇々と話してくれた在りし日の彼。
この言葉は、オノレが芝居の創造をやめる日まで、
己の座右の銘であり、自身の表現を問うリトマス紙である。
 安保廣信さん…。
あなたはこよなく芝居を愛しつづけて、
人生の旅路に終止符を打ちました。
ほんとうに、ほんとうにお疲れさま。

  演劇集団 円 公演 「実験」
Date: 2007-05-23 (水)
 演劇集団 円 公演、「実験」を観劇。
一昨年だったか、「アフリカの太陽」という、
なかなか味のある舞台でオノレを唸らせた宋英徳の作・演出。
 大日本帝国陸軍の関東軍防疫給水部本部・731部隊にまつわる話を、
今日的目線で仕立て告発し、客席へ実に面白く、
重いメッセージを届ける作品となっている。
 現在、我が安倍内閣は、
「戦後レジーム(体制)からの脱却」とか何とか、
ワケのわからんヘ理屈と言葉で憲法改正に突っ走っとる。
しかしその前に、かつての時代にたいする歴史認識も、
戦争責任も、我々日本国家は包み隠さずきちんと検証し、、
世界に向かって詳らかにせよ…と、宋は痛烈に告発し、
また個としての日本人一人ひとりに問いかけているような気がする。
 主役を演じる橋爪功の、気迫のこもった素晴らしい演技に驚いた!
★★★★!

  「少年陰陽師」イベント
Date: 2007-05-20 (日)
 今日は「少年陰陽師」のイベントに出演する。
オノレがアニメや外画などのイベントに出ることは滅多にない。
まして本日のごとく、何千人ものホール(新宿の厚生年金)で、
その舞台に立つのは初体験。
ほんま、かようにムサイ六十男が生身をさらし、
若いファンの前に出てダイジョウブかいな?
 ご来場のファンのみなさま、共に出演する声優のみなさま、
お手柔らかに、よろしくオタノミ申します。

  舞台のビデオ編集
Date: 2007-05-21 (土)
 先月、独歩公演のビデオ収録をしたくれた友人の制作会社・仕事場にこもり、
一日中、その編集作業に立ち会う。
 ハイビジョンカメラで撮られた「受付」と「虫たちの日」の舞台。
実に鮮明な画像で、独歩のごとき弱小プロデュースには、
チト畏れおおいような気がせんでもない。
 舞台映像を編集する作業はなかなか大変で、
編集をする者が芝居の流れ、内容をよく理解し、
役者の表現もしっかり把握しとらんと、
実に悲惨な出来上がりになってしまう。
で、オノレが演出・出演した場合、オノレは必ず編集現場に立会い、
細かく、うるさく、スタッフに口をはさんでダメを出す。
スタッフにとっては、根気のいる、神経の疲れる仕事であろう。
しかしオノレにとっては、俄か映画監督にでもなったような気分で、
なかなか愉しい時間を過ごし、つい「時」を忘れる。

  「伽羅」の朗読公演
Date: 2007-05-18 (金)
 武蔵野芸能劇場へ行き、「伽羅」の朗読公演を見せてもらう。
去年に続いてこれが二回目。
伽羅はオノレの友人、岡部政明・をはり万造・森うたうの三人がメンバー。
(今回は、大橋世津を加え、男女四人の構成)
 岡部・をわりのお二人は、これまでオノレのプロデュース公演に、
二度も重要な役で出演してくれた、
今どき得難い、強烈な個性を有すベテラン役者である。
ご両人と深く付き合いのある方々は、
この二人のもつ濃いキャラクターから、
さぞ強烈な朗読世界が展開されるのではないかと想像するやもしれん。
が、そのキタイで彼らの朗読舞台に駆けつけると、
たぶん期待は裏切られる。
 去年、第一回公演でも感じたことであるが、
伽羅の朗読は、あくまで静謐であり、過剰表現を抑制し、
まず聴き手に作品世界をしっかり伝えることが大切にされとる。
 人に聴かせる朗読の世界は、まことに難しい表現技術であり、
あまり挑戦したくない世界だと、オノレは常々思っとる。
しかし伽羅が構築しようとしている朗読の舞台は、
まさに、これぞ小説などを人に聴かせる表現者の、
原点ともいえる姿勢かもしれんな…と、オノレは思う。
 いかにシンプルに、真摯に、語り部の想いを心で内燃させつつ、
墨絵のごとく深い味わいで作品世界を客席に届けるか…。
伽羅の朗読舞台は、かような方向性で構築されているように感じ、
オノレは心からの拍手をして劇場を出た。
 この先、伽羅が回を重ねるごと、
どのようにその実りを豊かにしていくのか…。
朗読に臆病なオノレではあるが、
チットの嫉妬と期待を込めて愉しみにしている。
 朗読されたのは、重松清・作『カーネーション』『セッちゃん』の二作品。

 終演後の打上にも参加。
八ヶ岳の裾野に隠遁した? 役者・黒田利夫さんやら、
「象」「はるなつあきふゆ」に出演した側見民雄さん、
蓮池龍三君など、親しき芝居仲間たちも同席。
久し振りに酒量過多。ワイワイ発散。大酩酊!

  国立劇場・前進座公演
Date: 2007-05-17 (木)
 国立劇場で前進座公演、
「毛抜」「新門辰五郎」の二作品を観劇。
十三歳のとき、オノレは「新門辰五郎」に子役で出演し、
辰五郎の息子・丑之助役を演じとる。
辰五郎役は名優・中村翫右衛門(1982年・没)。
今日の舞台では、翫右衛門の息子である中村梅之助が、
辰五郎の父・勇五郎役を演じ、
梅之助の息子・中村梅雀が辰五郎役。
つくづく世の移ろいを感じるなあ…。
 中村翫右衛門さんの辰五郎は、
オノレの脳裏に未だ印画紙のごとく焼きついとる。
キリリとして温かく、何といっても器が大きく腹があった。
まだまだ若い梅雀が、その祖父の演じた辰五郎の懐の深さ、
器の大きさを演じるには、
役者として、これから多くの経験と精進が必要だろう。
それはたぶん、演技のタッシャさや意気のよさとは別に、
役の性根をどうつかみとるか…、その深さのような気がする。
 ガンバッテクレ、三世!

  イヤイヤながら…。
Date: 2007-05-16 (水)
 独歩プロデュース公演も終わり、
来年五月までの一年間、舞台はない。
入梅前に、どこぞのひなびた温泉宿にでもこもり、
食っちゃ寝、食っちゃ寝したいような気もする。
が、声優としてレギュラーの仕事もあり、そうもいかん。
 息抜きはともかく、なるたけ早い時期に、
脳と腰のMRI検査だけはせにゃアカンかもしれん。
オノレの血筋は脳血栓とか脳梗塞とか、
脳障害でオサラバしている身内が多い。
で、最近オノレの脳内が、どうもシャキッとせん。
 腰は去年の「はるなつあきふゆ」で痛めたらしく、
それほど酷くはないが、軽い腰痛状態がずっとある。
まだまだ舞台活動は続けたい。
が、そのためには、イヤイヤながらこの辺で、
オノレの体の点検をせざるをえんか。
 ま、明日にでもコロリとあっさりお陀仏させてくれるなら、
面倒くさくてオソロシイ検査なんぞしたくない。
まことにそれはそれでケッコウなことであります。
住宅ローンも無くなり、
何かとうるさいヤマノカミにオンガエシもできる!

  二つのアンケート用紙
Date: 2007-05-11 (金)
 芝居が終わり、この三日間、たっぷり休養。
体の疲れもほぼとれて、頭もスッキリ。
 今回の公演も、感想用紙に記載してくれた方が多く、
(ごらんいただいた方の、およそ六人に一人)
ありがたく貴重で様々なご意見を頂戴した。
全114枚の回収されたアンケートのうち、
手厳しい評価のご意見はお一人。
後はすべてよい評価・感想をいただけ、
プロデューサーとしてはまことに嬉しい思いである。
が、慢心せず、この成果を来年の舞台に生かすことが大切だ。
 さて、たった一枚、まことに手厳しい感想をもらった。
これは芝居を創る当事者としても、
オノレが他人の芝居を観劇する客としても、
いろいろ考えさせられるアンケートである。
オノレも芝居に関わる一人として、
よくも悪くも無視できぬものがある。
で、あえてオノレ日記帳に掲載することにした。
書かれたこの方は、〈御名前〉欄に、
「演劇をこよなく愛し、別役実のファンとだけ申し上げておく」
と、記載しとる。

@ 「受付」 稲垣、大館の演技、麦人の演出、
全てが低レベルで怒りさえ感じた。

A 「虫たちの日」 “楽しく”“面白く”観れた。
それは、紀伊国屋演劇賞個人賞を二度も受賞暦のある今井の、
感性の豊かさ、演技の確かさによるものである。
共同演出とあるが、麦人一人の演出であろう。
悪条件の下、今井は実に見事であった。

B 麦人については、敢えて苦言を呈する。
「民藝」に在籍経験有りとか。そこで何を学んだのか。
役者としての基本も基礎も有していない。
「アテ師」(麦注・声優をバカにした業界用語)
ではあっても役者とは言えない。
まして演出など、その資質も資格もない。
舞台はその人間の人生を表すと言うが、
器の小さな偽善者の素顔を麦人に見た。

C 制作には、初歩的なミスが多々見られ、
不快な思いがした。

D 次回公演は、麦人演出ではないようだが、
賢明な選択である。

 以上、無記名であるから、
このお方にお礼の一つも言えないのが残念である。
たぶんオノレと個人的お付き合いは全くない方だと思うが、
実に演劇鑑賞眼レベルの「タカイ」お客様ではある。
かように手厳しい評価を掲載したので、
偽善者のオノレにはチト暖かすぎる、
「高い」評価の感想も、併せて一つ掲載させていただく。

 「受付」では、非日常的シチュエーションで、
「虫たちの日」では身近な情景で、
人間の可笑しくも愚かな習性を見せ付けられた思いです。
しかし決して押し付けがましいものではなく、
鑑賞後はなぜか清々しいのです。
 「受付」での誇張された偽善(独善?)や狂気も、
決して他人事ではなかったし、
「虫たちの日」に見られる思い込みや思いやりも、
自分の中にあるものでした。
恵まれた環境に無くとも、自分は幸福だと思いたいという、
「しあわせだったよな」という言葉には、
善・悪で断ずることのできない深い含みがあって、
舞台を見た人それぞれに違った感想があろうことは容易に想像できます。
 今回の公演を見る前は、
「はるなつあきふゆ」(麦注・去年の独歩公演)よりもマニアックで、
分かりにくい内容になるのではと、勝手に危惧していたのですが、
それは無用の心配だったと反省しております。
 独歩の別役作品公演は、毎回様々な趣向で楽しめるので、
舞台が身近なエンターテイメントになってきました。
酷なお願いかもしれませんが、気力・体力(財力?)の続く限り、
公演を行って頂けると幸いです。
 麦人さんのお芝居を楽しみにしております。

〈御名前〉保村 匡俊 (御住所・電話の記載有り)

  流れる雲をただ呆然と…
Date: 2007-05-08 (火)
 終わった。
独歩プロデュース公演、「受付」「虫たちの日」の千秋楽は、
昨日、マチネーの幕を無事閉じて、夜は打上。
まことにまことに清々しく愉しい三時間の宴。
で、やっぱり飲み過ぎちまった。
今朝からオノレの脳天と体は、仰向けに寝ころんで、
流れる雲をただ呆然と眺めているような状態である。
 来年の公演もやはり五月の連休明けから。
それまでおよそ一年…。
長いようでアッという間の一年が、今日からまた始まる。

  千秋楽!
Date: 2007-05-07 (月)
 独歩にとっては、これまでの中でもっとも長丁場の公演も、
いよいよ本日千秋楽!
しかし最後の舞台も初日を迎える気持ちで臨みたい。
そして夜は打上。人生でもっともウマイビールを、
五臓六腑にシミわたらせたい。
 お越しくださったお客様、心から御礼を申し上げます!
スタッフ・出演者の皆様、とりあえず今日でお別れ…。
お疲れさまでした!

  夫婦別れ
Date: 2007-05-06 (日)
 独歩プロデュース公演、「受付」「虫たちの日」も、
余すところあと二日だけの舞台である。
 ここまでの十日間、客足は思ったより伸びず、
目標の六割くらいになりそうでチト辛い。
しかし役者のオノレとしては心身とも充実した毎日であった。
それは何よりも、〈今井和子〉さんという稀有の女優と、
夫婦役で共演する機会を得たことに尽きる。
齢七十五とは思えぬ、彼女の生気に満ちた表現に、
オノレは毎日圧倒される舞台である。
 素顔の今井さんは闊達で率直、可愛いらしくオモロイ。
今年の独歩公演は、彼女なくして出来なかった。
「虫たちの日」の愉しい舞台成果も、
この天真爛漫な女優さんがいてこそである。
そして今井さんとも、二日後に「夫婦別れ」せにゃならん。
 サビシイなあ…!

  脈絡のない芝居
Date: 2007-05-01 (火)
 昨夜の舞台はほぼ満員。
これまでにまして大きい笑いの渦が客席から舞台に押し寄せ、
チト驚いたり途惑ったりしながら芝居を続けたオノレである。
笑いがあればよい舞台というわけではないし、
もちろんオノレも今井さんも、
客を笑わそうとして演技はしとらん。
ただただ作品に描かれているシチュエーションと役を、
生真面目に、必死に演じた結果、
今回の舞台では客席に笑いが起る。
 ともかく「虫たちの日」の芝居の筋立ては脈絡がない。
一つの状況とその次の状況につながりがないから、
うっかりすると次に何をするのか役者は失念し、
互いに舞台上で沈黙の睨みあいをしちまうハメとなる。
役者にとって実に厄介、「泣かされる」作品なのであります…ハイ。
 たぶん千秋楽までの全ステージ、
今井さんとオノレが舞台上で睨みあう大小の沈黙があるだろう。
彼女はホトホト楽屋でつぶやいとる。
「別役さんて、役者に意地悪で、もう大ッキライ!」