オノレ日記帳

2008年1月の記録



  ガックリ!
Date: 2008-01-31 (木)
 十六年前にオノレの独演、「ごびらっふの死」を、
某地に招かれ上演した舞台を収録したビデオがあり、
DVDにコピーして保存するため久し振りに見るハメになった。
四十代半ばのオノレの独り舞台…。
いやもう、ガックリ…。その酷すぎる演技ったら!
実に己は、こんなに独りよがりで、自己陶酔だけの舞台を、
アチコチ、いろいろなお客様にお観せしていたのだ…。
ま、今さら悔やんでもせんないのだが、
見ているうちに冷や汗は出てくるわ、情けなさがつのるわで、
もう保存せずに破棄しようと思った。
が、まてまて…。どうしようもない演技を理解するに、
これほど素晴らしいお手本もあるまい…と考え、思いとどまった。
 「ごびらっふの死」は、十年前に上演したのが最後である。
オノレは、ビデオに残された、この最悪のオノレの演技を見て、
改めてこの独演を創りなおし、いつか再挑戦したいと思った。
でなければ、オノレもいずれ逝くあの世で、
原作者の詩人・草野心平さんに顔向けできん!

  或る「小倉日記」伝
Date: 2008-01-29 (火)
 1952年(昭和27年)の芥川賞受賞作品は?
松本清張の「或る『小倉日記』伝」である。
オノレが小学二年生のころ書かれたわけであるが、
はじめて読んだのは二十代後半であったような気がする。
なぜかふと思い出し、昨夜何十年振りかに再読した。
 生まれつき身体障害を抱えて白痴のように見える、
しかしなかなか頭脳に優れた男が、
森鴎外の日記で空白となっている小倉時代の足跡を埋めるべく、
その調査に生きがいを見つけ全身全霊を注ぐ。
不憫な息子を溺愛する、美しい母の献身的協力を得ながら…。
というような短編小説で、解説の平野謙によれば、
実在の人物を描いたモデル小説。
 すっかり内容を忘れていたオノレであったが、
改めてその面白さにのめりこみ、
収録されている他の短編まで読みきって、
気がついたら深夜二時を過ぎていた。

  二つの勝負!
Date: 2008-01-28 (月)
 初場所、白鵬が朝青龍に勝って三場所連続優勝。
TVで見ても、久し振りに力のこもった横綱同士の大一番であった。
「ガチンコ相撲?」てえのは、かように凄い闘いになるんだなあ…!
 ニュースで見ただけだが、女子マラソンの福士選手にも驚いた。
何度も転げ倒れて、なお笑みを浮かべて走っとる。
たぶん本人は無意識の中でかような表情をしていたのであろうが、
彼女の笑みの中に、意志の強い、
健気な人間性を感じたのはオノレだけではあるまい。
さよう、オノレの場合、苦しいとき、辛いとき、
素直に歪んだ顔面になっちまう「軟弱」な男である…。

  荻窪で…
Date: 2008-01-27 (日)
 昨日、土曜日のマチネー。
赤坂・レッドシアターで、トムプロジェクトプロデュース、
トラッシュマスターイズム08「極東の地 西の果て」を観劇。
作・演出は中津留章仁。
彼の舞台は去年も観て、なかなかエネルギッシュでよかったのだが、
今年もいつのまにか舞台に引き込まれ面白かった。
独歩の舞台に二度出演してくれた川埼初夏ちゃんが客演しており、
パワーも幅もある素晴らしい演技をしとる。
 夜は荻窪で、友人の鍵盤楽器奏者・武久源造夫妻と「新年会」。
源造さんとよきコンビのピアニスト・山川節子さんも参加、
大いに発散して大いに酔わせていただいた!
 三月二十三日の日曜日、紀尾井ホールで、
源造さんとオーケストラが演奏し、
ダンサーの福峰有梨さんが踊る舞台がある。
で、オノレも朗読で参加させていただくことになっとるが、
朗読するのは源造さんの詩である。
まだ読ませて頂いてないが、
まことに嬉しい大役を仰せつかってしまったわい!

  ネガティブ
Date: 2008-01-24 (木)
 年が明けてから今日まで、
オノレが足を運んで観劇したのは二回だけ。
毎日失業状態のような日々が続くと、
他人の舞台を観るのに、何となく腰が重くなってイカン。
一日、ほとんど家に閉じこもって、
オノレがプロデュースする五月と十二月の芝居のことばかり考えとる。
で、ついつい、この二公演でいくら赤字になるのだろう…とか、
ガラガラの客席ばかりの日が続いたらどないしょ…とか、
ネガティブな思考ばかりに陥り、晩酌の量が度を超す。
 かようにヒマな日々こそ、時を忘れるような旅でもして、
ゆっくり温泉に浸かったり、
山水を前に、オノレの俗をチト清めたりとも考える。が、
「稼ぎがないのに、そんな散財をするわけにもいかんのう」と、
けっきょくオノレの俗がオノレを戒め、自宅の朝風呂…。
 いやはや、オノレの度量のなさ、器の小ささに、
オノレもほとほと厭になるわい!

  雪の華
Date: 2008-01-23 (水)
 しばし温暖化の危機を忘れてしまいそうな東京の雪…。
え〜、一月のオノレはドドヒマ。
「幸い」にも、今日も明日も仕事がない。
いっそこの真ッ昼間から、雪見酒でもして酔うか!

誇ろうて乱れて哀し雪の華   麦  人

  能面と人形
Date: 2008-01-19 (土)
 昨日の朝日夕刊の「道具ばな史」の記事。
能面について書かれており、
能面の本義は、《隠して表す》にあるそうな。
能は、筆者の米原氏によれば、
能楽師が個性を出すために個性を滅却し、
滅却した上で何が出てくるかを、観客にゆだねる芸能だという。
 かような記事を読んで、オノレの頭の中に、
ふと前進座の名優・中村翫右衛門の何かが浮かんだ。
早速、本棚でホコリを被っていた、
「演技自伝」という翫右衛門著の本を取り出し久し振りに読み返した。
文楽人形を見て感じたことを書いているくだりがある。
「生きている人間であるがゆえに、舞台の上で役が死んで、
魂のない人形であるがゆえに、
舞台の上でかえって役が生きていることを、
私は自分でしばしば感じさせられ、
世の中のことも、舞台のことも、
この中に妙がひそんでいるように思えて、
人形を見るたびにジッと考えさせられる」
 この五月の独歩プロデュース公演「おたまじゃくしとかえるのこ」では、
裸のマネキン人形が重要な登場人物の「一人」となる。
はたしてマネキン人形は、この舞台にどう生きて何を語るか…。
そして生きた人間である我々役者は、
舞台の上で役を殺さずに生きることができるであろうか…?!

  散歩でぐんにゃり
Date: 2008-01-18 (金)
 このところようやく冬らしい寒さの日が続く。
それでも昔々の東京のように凍えるような寒気ではない。
東京都心からだいぶ郊外の、オノレの住む小平でも、
霜を踏み踏み歩くような朝はおよそない。
だいいちそんな寒い朝があったとしても、
土の歩道がないのだから霜もできん。
 オノレの少年時代、霜溶けの道を歩くと、
運動靴の底に泥の塊がこびりつき、
それを木の小枝で取り除きながら学校に登校した。
しかし今では、たまに靴の裏にこびりつくのは犬の糞。
今朝も散歩でぐんにゃり…、やれ腹立ちや。
マナーの悪い愛犬家が多いわい!

  あなまどい
Date: 2008-01-17 (木)
 「あなまどい」(穴惑い)とは、
彼岸を過ぎても冬眠の穴を見つけられずにいる蛇のことである。
そのため死んでしまう蛇も多いという。
先週、前進座のかようなタイトルの芝居を観て、
オノレははじめてそのことを知った。
(乙川優三郎・原作で、前進座らしい、なかなかよい舞台)
 六十過ぎても惑っているばかりのオノレは、
はてさて、残りいくつの彼岸を数えるのであろうか…?

  党首討論
Date: 2008-01-10 (木)
 昨日の福田・小沢の党首討論は、
まるで気の抜けたビールかシャンペンのごときであった。
馴れ合いなのか、仲がよろしいのか、
次の総選挙で雌雄を決する政党の親玉対決としてはまことにナサケナイ。
お二人のやりとりからからは、
この国の憂うべき現状にたいする危機感は感じられず、
実にのどかで、相手に対する思いやりに溢れておった。
 やはりご一緒に大連立を組みたいか!?

  明日は新年会!
Date: 2008-01-04 (金)
 世間では今日から仕事始めのところがあるようだ。
オノレの仕事始めは六日から。
去年の暮れに収録したテレビCMのリテイクという、
年の最初にやる仕事としてはチトサビシイ…。
 明日は拙宅で親しき仲間と恒例の新年会。
役者・アニメ監督・その奥方などなど、
全十二三人ほどが集ってワイワイやる。
今、ヤマノカミはその下ごしらえに大わらわで…、
オノレは大したことはシテナイ。
 年に一二度、もう何年も続けている宴会であるが、
オノレが元気に飲めて、ヤマノカミが音を上げるまでは続けたい、
会費制で無礼講の、まことに愉しい集まりである!

  イチローの心得
Date: 2008-01-03 (木)
 大リーグ・マリナーズのイチロー選手が、
NHKのインタビューで言うとった。
「ファンは、貴重な時間を割いて観戦しに来るのだから、
自分もよいプレーをするために、
何かを犠牲にするのはあたりまえ」てなことをね。
つまり野球に精一杯打ち込むには、
ほんとうはやりたいゴルフとかパチンコとか、
趣味の一つや二つ、我慢するのは当然てえことなんだろう。
さすがイチローの心得!
 そこでオノレは自問自答。
芝居の客も、貴重な時間と銭を費やし、
わざわざ劇場へ足を運ぶのだから、
オノレもオノレ最高の表現をするため、
何かひとつ我慢をしてでも、
芝居の稽古に打ちこむべきではないか?
禁酒・禁煙・〇〇・〇〇〇etc…、
日頃の欲望を我慢してプラスになることはいくつもある。
しかしこれを無理に我慢すると、
もの凄いストレスが溜まるような、
かえってオノレにマイナスになりそうなものばかりなんだ…。
 深く沈思黙考のあげく、
イチローの何百分の一の能力も稼ぎもないオノレにとって、
彼の心得は、まことに実行するに難しい所行である…、
てえことがヨクワカッタ! 

  地球温暖化
Date: 2008-01-02 (水)
 このところ「地球温暖化」の報道が際立って多い。
人類が今のまま二酸化炭素を放出し続けると、
半世紀後の地球はどえらい環境になるそうである。
ひょっとすると日本の四季は失われ、
一年中、梅雨か真夏のような気候になってしまうのか?
正月にTシャツ一枚の短パン姿で西瓜をかじるなんてえのが、
珍しい風景ではなくなってしまうのか?
ま、あと干支一巡り生きるかも怪しいオノレは、
そこまで深刻で異常な環境下になる前に、たぶん骨になる。
が、現代の若者、これから生まれてくる子供たちは、
実に恐ろしい自然環境の中で生きることになるやもしれん。
今を生きる大人の、「温暖化」に対する責任は重い!

  元旦
Date: 2008-01-01 (火)
初夢は舞台で放屁赤っ恥   麦  人

 かようにみっともない初夢を見たので、
オノレは早速駄句を認め、2008年の年を迎えた。
この初夢の客席は大爆笑で受けとったが、
寝覚めはあまりよくない。
 正月になるとよく思い出すことがある。
四十代になって間もなくの頃の元旦の一日。
自業自得で破産寸前となり、ボロアパートの三畳で、
朝から一人寝ころんで虚しく過ごしていた。
 夕方、どうにも寂しくなって街を歩いた。
開けている飲み屋はないものかとうろつきまわり、
ようやく一軒見つけて入った。
カウンターだけのその店は、元旦の夜だというのに、
十人くらいの常連客でにぎわっている。
初めて見る、冴えない顔をしていたであろう男の闖入に、
にぎやかだった店内の空気は、しばらく湿り続けた。
そんな空気を無視して、オノレは右隅の空席に坐り、
黙々と日本酒を飲みながら「晩」の空きっ腹を満たした。
店内はいつの間にか、常連同士の笑いがあふれ、
もとのにぎやかさをとり戻している。
 二時間ほど飲んで、妙に男っぽい濁声のママに勘定を促すと、
「お雑煮をご馳走するから、食べていきませんか?」と言われた。
もちろん断る理由もない。
 出てきたお雑煮は、さっぱりとした出し汁で、
小ぶりの丸い餅が二つ、三つ葉をそえて、
白く明るい表情でオノレを見上げていた。
 そっと箸で丸餅の一つを持ち上げる。
餅はだら〜んと、漫画の涙のようにのびて、
オノレの口中を軟らかく徘徊し、
それからゆっくり、時間をかけて腹に落ちた…。
 ささやかな幸せを味わった、オノレの元旦の思い出である。

人生の阿修羅の中で喰うた白餅(もち)  麦  人